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『ブランド・エクイティ戦略』で有名なブランド論の権威、デービット・A・アーカー教授の近著です。

私は『ブランド・エクイティ戦略』は未読ですが、大学院でブランド戦略の講義をとり、一通り概要だけは舐めた記憶があります。

本書は20章からなりますが、ブランド理論から実践的な戦略までがコンパクトにまとまっています。ブランドを企業の持つ資産の一つと捉えて、この資産をどのように確立していくのか、強化していくのか、事業戦略と歩調を合わせてどのように拡張していくのか、など、企業活動と結びつけて、事例を豊富に交えながらわかりやすく説明しています。

全体的にどこも重要な話とは思いますが、特にポイントとなるのは、第7章で出てくる「マストハブ」という概念だと思いました。マストハブの概念は正確な定義が記述されていないため非常に難解ですが、私の理解では、自社製品の差別化ポイントがある製品のサブカテゴリを形成する必須要件となることです。つまり、消費者があるカテゴリの製品を購入しようと考えたとき、それが自社製品の購入に直結する状況を作るということです。これはそのカテゴリにおいて競合が存在しない状況ですから、圧倒的に優位な立場に立てるわけです。

本書ではマストハブの具体例として、日本のビール市場を挙げています。ここではマストハブはアサヒスーパードライであり、キリン一番搾りであり、キリンの発泡酒です。新たな製品のサブカテゴリを形成するような特徴のある新商品を投入することで、市場全体の構造さえも変化させることができるというわけです。

アーカー教授のブランド理論はブランドを一つの資産と捉えて、これを事業戦略の大きな柱として捉えることに特徴があります。おそらく現在でも多くの場合、ブランド管理は他者によるフリーライドやダイリューション(希釈化)、ポリューション(汚染)を排除する守りの行為と捉えられがちです。企業の商品やサービスが主であり、ブランドは商品やサービスを後押しするための従の関係になります。一方で、ブランドを一つの資産として捉えて、すでにあるブランドを強化する方向で新たな商品やサービスを開発していくことが重要となるというのがアーカー教授の考え方です。

私自身はブランド管理を生業とするわけではありませんが、話を聞く限りブランド管理の実務は例えば模倣品対策だったり商標調査だたり地味な裏方的な仕事が大半のようです。そうした仕事ももちろん重要ではありますが、その仕事の先が企業全体の方向性を決定づける経営戦略に直接結び付くという発想は、担当者のモチベーションにも大きく影響するのではないかと思いますし、日ごろブランド管理の業務に就かれている方は一読すると面白いと思います。

ところで、本書を読んでいて、いくつか気になったところがあります。一つは訳語の選択で違和感があるものが多かったことです。例えばさかんに「レレバント」という単語が出てきます。relevant=関連のある、という意味ですが、果たして「レレバント」が「関連」を表す外来語として一般的なのか大変疑問です。少なくとも私はカタカナで書かれても何のことか理解できませんでした。「マストハブ(must have)」も同様のことが言えると思います。もう少し頑張ってわかりやすい訳語を当てる努力をしてもいいんじゃないかと思いました。

また、本書ではいろいろな概念を説明するにあたって多くの事例を挙げているわけで、それ自体は非常にわかりやすくていいのですが、基本的に米国の商品やサービスが挙げられているので、日本人の私ではイメージがし難いブランドも多く挙げられています。あまり日本でメジャーでないブランドについてはある程度注釈を入れるなどされていると理解しやすくてよかったのではないかと思いました。

本書はアーカー教授のブランド理論を余すところなく解説されており、知財業界の人にとっては必読の書だと思いました。出版から2年経ってようやく読破した人間が言うのもどうかと思いますが、おすすめの一冊です。

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