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freeeがマネーフォワードを特許権侵害で訴訟提起したと報道されています。いわゆるクラウド会計分野で競合するスタートアップ企業同士の特許訴訟ということで注目を集めています。

freee 株式会社(本社:東京都品川区、代表取締役:佐々木大輔、以下 「freee」 )は、本年10月21日に株式会社マネーフォワードに対し、当社が勘定科目の自動仕訳に関して保有する特許第5503795号(以下「本件特許」)に基づき、同社提供の「MFクラウド会計」を対象として、特許権侵害を理由とした差止請求訴訟を東京地方裁判所に提起いたしました。この度同社に対して、本件特許を含む当社保有知的財産の存在につき理解を求め、協議を行ったものの、進展が見られなかったことから止むを得ず今回の提訴に至りました(平成28年(ワ)35763号)。

出典:特許権侵害訴訟の提起について | プレスリリース | freee株式会社

係争の対象となっている特許第5503795号「会計処理装置~」の請求項1は以下のようになっています。なお、下線は補正が行われたことを表しています。

 クラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理装置であって、
 ーザーにクラウドコンピューティングを提供するウェブサーバを備え、前記ウェブサーバは、
 ウェブ明細データを取引ごとに識別し、
 各取引を、前記各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して、特定の勘定科目に自動的に仕訳し、
 日付、取引内容、金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成し、
 作成された前記仕訳データは、ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、前記コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示され、
 前記仕訳処理画面は、勘定科目を変更するためのメニューを有し、
 前記対応テーブルを参照した自動仕訳は、前記各取引の取引内容の記載に対して、複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し、優先順位の最も高いキーワードにより、前記対応テーブルの参照を行う
ことを特徴とする会計処理装置。

出典:JP5503795B1 – 会計処理装置、会計処理方法及び会計処理プログラム – Google Patents

ちなみに公開公報に載っている出願時の請求項1は以下のとおりです。

 クラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理装置であって、
 中小企業又は個人事業主のユーザーにクラウドコンピューティングを提供するウェブサーバを備え、前記ウェブサーバは、
 ウェブ明細データを取引ごとに識別し、
 各取引を、前記各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して、特定の勘定科目に自動的に仕訳し、
 日付、取引内容、金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成し、
 作成された前記仕訳データは、ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、前記コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示され、
 前記仕訳処理画面は、勘定科目を変更するためのメニューを有することを特徴とする会計処理装置。

出典:JP2014182787A – 会計処理装置、会計処理方法及び会計処理プログラム – Google Patents

出願時にはユーザを「中小企業又は個人事業主」と限定していましたが、これを外しています。この補正は単純に中間対応時に不要な限定事項と判断して削除しただけでしょう。

出願時にはキーワードと勘定科目の対応テーブルを参照するのみの自動仕訳でしたが、複数のキーワードに対してルールに従って優先順位を付けて対応テーブルを参照することを限定する補正をしています。この限定は補正前の請求項8で記載されていたものですが、拒絶理由通知書で請求項8が拒絶の理由を発見しないとされたことに対応する補正です。

ちなみに、出願時の請求項1は、弥生株式会社の特願2011-170490号「SaaS型汎用会計処理システム」(参照)を引例として進歩性なしと判断されていました。

マネーフォワードの方は、2016年8月30日付けで、機械学習による勘定科目提案機能のプレスリリースを出しています。従来はユーザが自分で自動仕訳のルールを作らないといけなかったけれど、マネーフォーワードが保有する大量の明細データを学習したモデルを用いて自動的に勘定科目の識別を行う機能を追加したという内容のようです。

 従来の「勘定科目提案機能」では、自動取得した銀行口座やクレジットカード明細などのそれぞれの取引内容に応じて自動仕訳ルールを設定することにより、ルールにもとづいた勘定科目提案が行われてきました。しかし、初めて利用するユーザーや、年間を通じて利用頻度が少ないユーザーなど、自動仕訳ルールの設定をしていないユーザーは、取引ごとに勘定科目を手動で選択する必要がありました。
 この度バージョンアップした「勘定科目提案機能」では、当社が保有するビッグデータ(自動取得したデータから作成した仕訳)にもとづき、機械学習による勘定科目提案を行うため、初めて利用するユーザーでも、ほぼ全ての取引に対してより精度が高い自動仕訳を可能にします。

出典:『MFクラウド会計・確定申告』、機械学習を活用した「勘定科目提案機能」をバージョンアップ 〜仕訳のビッグデータをもとに、より精度の高い自動仕訳が可能に〜 | 株式会社マネーフォワード

マネーフォワードの技術がどのようなものかは「機械学習」の一言でブラックボックス化されているので判断は難しいですが、普通に考えると明細データを特徴量化して識別器にかけるんでしょうから、freeeの特許の文言だと侵害していない可能性が高いんじゃないかな、という感じがします。

また、特許第5503795号は出願日が2013年10月17日になっています。弥生の出願でキーワードと勘定科目の対応テーブルに基づいて自動仕訳することは公知になっている状態で、複数のキーワードがあるときにルールに従って優先するキーワードを決めることが2013年の時点でそんなに難しいことだろうか、という疑問もあります。要するに、freeeの特許は無効と判断される可能性が高いのではないか、ということです。

こうして見てみると、freeeの方が分が悪いように思えます(個人の感想です)。

ところで、freeeは、2016年6月27日付けで、AIを用いた自動仕訳の基本特許を取得した旨のプレスリリースを出しています。

freee は、創業当初より人工知能による経理効率化に注力し開発を進めており、2016年5月20日付で、クラウド会計ソフトの特徴である自動仕訳機能に関して、人工知能技術を活用した基本特許を取得しました(特許第5936284号)。これを皮切りに、 freee だからこそ実現できる高度な自動仕訳機能、自動消込機能など、人工知能を活用したバックオフィス効率化の機能開発を進めてまいります。

出典:freee が自動仕訳に関する人工知能(AI)技術の特許を取得。 バックオフィス業務効率化の支援をAIで加速することを目指した 「スモールビジネスAIラボ」 を創設。 | freee プレスリリース

特許第5936284号「会計処理装置~」の請求項1は以下のようになっています。

 クラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理装置であって、
 ユーザーにクラウドコンピューティングを提供するウェブサーバを備え、前記ウェブサーバは、
 ウェブ明細データを取引ごとに識別し、
 各取引を、前記各取引の取引内容の記載をキーワードに分節し、各キーワードに対応づけられた1又は複数の勘定科目の出現頻度を参照して、特定の勘定科目に自動的に仕訳し、
 日付、取引内容、金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成し、
 作成された前記仕訳データは、ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、前記コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示されることを特徴とする会計処理装置。

出典:JP5936284B2 – 会計処理装置、会計処理方法及び会計処理プログラム – Google Patents

特許第5503795号で「各取引の取引内容の記載に基づいて、前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して」となっていた箇所を、「各取引の取引内容の記載をキーワードに分節し、各キーワードに対応づけられた1又は複数の勘定科目の出現頻度を参照して」としています。データの出現頻度に基づいて識別するのは機械学習の基本的な動作ですから、特許第5936284号の方がマネーフォワードの勘定科目提案機能をカバーしている可能性が高そうに見えます。

なぜfreeeは特許第5936284号でなく特許第5503795号で訴えたのか謎です。

いろんな意味で注目度の高い訴訟になると思いますので、興味を持ってウォッチしていきたいと思います。

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