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どうも最近仕事もプライベートも忙しくて完全に出遅れてしまっていたのですが、上田育弘さんが『PPAP』の商標を出願していたのがワイドショーで取り上げられたようで物議を醸していたようです。

調べてみると、ベストライセンス株式会社が2016年10月5日に出願していて、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社は2016年10月14日に遅れて出願していたようです。

YouTubeで『PPAP(Pen-Pineapple-Apple-Pen Official)』が公開されたのが2016年8月25日、ジャスティンビーバーがtwitterに投稿してブームに火が付いたのが2016年9月25日だそうです。あいかわらず先取り出願を行う瞬発力はすごいですね。暇なんでしょうか。

この件がワイドショーで報じられてからネット上でも多くの有識者(一部、無識者も)が見解を述べられています。大方の意見は、出願手数料を払ってもいないし、仮に手数料を払っても特許庁が拒絶するから問題にはならない、というものです。私もそう思います。

一方で、拒絶の理由として商標法4条1項10号や15号を挙げる人がほとんどなのですが、ここには違和感を感じます。

4条1項10号・15号

4条1項10号は他人の周知商標と同一類似、15号は他人の著名商標と同一類似の場合に、拒絶されるというものです。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

十  他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

十五  他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

4条1項10号・15号は、両時判断ですから出願時(すなわち10月4日時点)に「PPAP」が何者かの商標として少なくとも周知である必要があります。確かに「PPAP」という言葉は一部でブームになっていたかもしれませんが、これは楽曲名もしくは動画のタイトルとして有名になっていたに過ぎません。

基本的に著作物のタイトルはその内容を表す表示であり、出所表示としての商標とは扱われません。なので、「PPAP」の動画が話題になっていたとしても他人の出所表示として周知であったとは言えず、4条1項10号・15号は適用できないように思います。

3条1項柱書

3条1項柱書で拒絶されるという説もあります。これは出願人が自分で使用しない商標は登録されないというものです。

(商標登録の要件)
第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

上田育弘氏は年間1万件を超える商標登録出願をしていますが、1件も出願手数料を払わず、それらの商標を使用した事業を行っている形跡もありませんから、本来的には該当するように思えます。

ところが、3条1項柱書の使用意思は将来の使用でも足りるとされています。基本的に商標は早い者勝ちですから、これから事業を始める人が準備段階であらかじめ商標を出願・登録しておける方が便利だからです。

商標審査基準では、使用意思の確認方法が定められていて、事業計画等を提出させることがあるということにはなっています。しかしながら、計画書をでっち上げるくらい上田育弘氏なら平気でやりそうですし、それっぽい計画書が提出されたときに特許庁が強引に拒絶するのは、公平性の観点からは難しいように思います。

(4) 業務を行う予定があることの確認について
(ア) 出願人等が出願後3~4年以内(登録後3年に相当する時期まで)に商標の使用を開始する意思がある場合に、指定商品又は指定役務に係る業務を出願人等が行う予定があると判断する。
(イ) 指定商品又は指定役務に係る業務を出願人等が行う予定があることの確認のためには、商標の使用の意思を明記した文書及び予定している業務の準備状況を示す書類の提出を求める。
なお、商標の使用意思が明確でない場合や当該予定している業務の準備状況に疑義がある場合には、必要に応じその事業の実施や計画を裏付ける書類の提出を求める。

出典:商標審査基準 第3条第1項柱書

逆にこれで拒絶してきたら、特許庁も本気で上田育弘氏を潰しにかかってるな、と判断できそうです。

4条1項7号

私が一番可能性が高そうだと思うのは、4条1項7号です。公序良俗違反というある意味何でもありな条文です。他の拒絶理由には該当しないけど商標登録は絶対に認められない場合に最終手段として用いられる伝家の宝刀です。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

実は、有名な楽曲名や番組名を関係者以外が勝手に出願するケースというのは結構多いようです。こういう場合に、特許庁は4条1項7号で拒絶する場合が多いようなのです。

例えば、SMAPの『世界に一つだけの花』を無関係の人が勝手に出願したケースがあります。

(5)まとめ
引用楽曲は、2003年3月5日にシングルヴァージョンが発売されて以来、同年5月には200万枚と突破し、JASRAC賞を2004年(金賞)、2005年(金賞)、2006年(銅賞)を獲得し、2003年、2005年、2007年及び2009年の紅白歌合戦で歌唱される程に国民的な歌謡曲と認められる。
そうすると、需要者間に広く知られ周知・著名となっている引用楽曲のタイトル及び歌詞中のフレーズに本願商標と同一と認められる「世界に一つだけの花」の文字を、その作詞家、作曲家、実演者及び関係者と何ら関係のない請求人が、その指定商品について登録、使用することは、本願商標の登録出願前よりその周知著名性が継続している引用楽曲のもつ顧客吸引力に便乗し、本願商標を採択したといわざるを得ないから、社会の一般的道徳観念に反するものであって、社会的妥当性を欠き、公正であるべき商取引の秩序を乱すおそれがあるものといわなければならない。
(6)むすび
したがって、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとした原査定は、妥当であって、取り消すことはできない。

出典:不服2009-6939

あと楽曲名ではないですが大河ドラマ『篤姫』を無関係の人が勝手に出願して拒絶されたケースもあります。

(4)上記(3)の事実からすれば、「篤姫」は、NHKの大河ドラマ「篤姫」の制作発表ないし放映を契機に、全国的に周知・著名な人物名になったものと認められる。
そうとすると、「篤姫」の文字からなる本願商標を、その指定役務について、前記ドラマの製作者・放送者等と関係が認められない請求人(出願人)が自己の商標として使用することは、前記ドラマの主人公「篤姫」の人気に便乗し不正の利益を得る目的をもって使用するものと判断するが相当であって、公正な商取引の秩序を乱すおそれがあり、社会の一般的道徳観念に反するものといわざるをえない。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第7号で定める「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する。

出典:不服2007-29500

ということで、仮に上田育弘氏が出願手数料を納付して審査がされた場合、4条1項7号で拒絶するのが一番妥当なんじゃないかと考えています。

まぁ、上田育弘氏の場合、存在自体が公序良俗に反しているわけですが。

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