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故・植村直己さんの『極北を駆ける』を読みました。

いやー、これは面白いです。今まで読んでいなかったのを後悔するくらい。

植村直己さんが登山で五大陸最高峰を登頂した次の目標とした南極大陸横断の訓練のために、単身で一年弱グリーンランドのエスキモーの村に滞在した記録です。植村直己さんというと、日本人初のエベレスト登頂や世界初の五大陸最高峰登頂など、登山家としてのイメージが強いのですが、世界的に名が知られるようになったのは犬ぞり探検の実績によるところが大きいようです。

本書は、エスキモーの村・シオラパルクに単身乗り込んで居を構えるところから始まります。エスキモーの原住民たちの生活や風習などが赤裸々に記録されています。特に、食生活や排泄関係、性生活などあまり大きい声では言えないようなところまで遠慮なく綴られており、大変興味深く読みました。このような内容は現在ではややもすると差別的な印象を与えかねないものかもしれませんが、まったくそういう感じがしないのは、植村直己さんが自ら身体を張って体験して彼らと同じ目線で描いているからでしょう。

後半はグリーンランドでの生活の終盤に実行した3000kmの犬ぞり単独行の記録です。犬ぞりがどんなものか予備知識もなく読み進んで行ったのですが、マイナス30度以下の極地で動物を操って行動する過酷さが恐ろしいほど伝わってきます。とにかく食料の計画が大変で、アザラシやセイウチの肉やオヒョウなどの魚が食料になるのですが、何か月分の食料をすべて積んでいくわけにもいかず、簡単に調達できるものでもないため、毎日が綱渡りのような生活になるようです。食料を調達に行ってる間にテントに置いていた食料を犬に食われて自分の食料がなくなる場面なども出てきます。写真などで見る限りだと楽しげに感じますけれど、これで何か月もかけて探検するなど人間業ではないと感じました。

文庫版のあとがきもまた読み応えがありました(kindle版で読みましたが、文庫版が底本となっています)。本書の中で、植村さんの後からシオラパルクへやってくる大島さんという若者が出てくるのですが、その当人があとがきを書いています。大島さんはその後グリーンランドへ帰化し40年間シオラパルクで漁師をしているそうです。植村さんは海氷上を犬ぞりで探検したのですが、現在では温暖化の影響で安定した海氷が張らず、同じ犬ぞり探検はもはやできない状況になっているそうです。また、エスキモーの人たちはアザラシやセイウチを狩って生活していたわけですが、自然保護団体の圧力などもあり、生活が脅かされているようです。特に、生態調査が夏の気候の良いときだけやってくるため、冬の間は大量に生息しているセイウチが絶滅危惧種に指定されて猟が制限されるなど、笑えない話があるようです。

調べてみたら、このあとがきがネット上で公開されていたので、リンクを張っておきます。これだけでも読んでみると大変興味深いと思います。

今では不可能な犬ぞりの旅 『極北に駆ける』 (植村直己 著)|書評|大島 育雄(在シオラパルク猟師)|本の話WEB

エスキモーの生活も犬ぞり探検も、私が生まれるちょっと前の話なのに、今や完全に失われているというのは衝撃的です。極めて貴重な記録ですので、一度は読んでおいて損はしない良書です。

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