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2008年3月19日および23日に金川真大が起こした土浦連続殺傷事件の記録です。加藤智大の秋葉原通り魔事件の3ヶ月前の事件で、あの事件にも大きな影響を与えたとも言われています。私も何となく荒川沖駅で大変な通り魔事件があったことは覚えているし、その直前も殺人犯が凶器を持って逃走中で危ないみたいな報道が連日されていた記憶もありますが、秋葉原事件のインパクトが大き過ぎてその後の流れはよくわかっていませんでした。

事件の詳細についてはネット上にも多くまとめられているので細かくは説明しませんが、簡単に言うと、引きこもりの青年が死にたいけど痛い思いをしたくないから死刑になりたいという理由で刃物により2人を殺害し7人に重傷を負わせ、公判でも態度を変えることなく死刑判決を得て2013年2月21日に執行された、という事件です。

本書は読売新聞水戸支局の記者が当時の記録をまとめたものです。多くの犯罪ものノンフィクションでは裁判記録や関係者への取材が中心になりますが、本書ではこれに加えて何度となく犯人へ面会した内容が含まれているのが特筆すべきところかと思います。記者自身が犯人の生の声を聞いて交流することで、犯人の人間性が克明に描かれており、貴重な記録になっています。

犯人は高校時代の途中からおかしな言動をするようになったようで、歪んだ家庭環境による影響はかなり大きいように感じました。何しろ元々犯人が最初のターゲットにしたのが実の妹というのもすごいし、家族の誰もが犯人の死刑を望んだというのも信じ難い話です。父がノンキャリアの外務省職員で子供たちへの期待が大きかったようで、犯人が成長するにつれて失望から無関心に移って行ったのが家庭崩壊の主たる要因のようでした。もちろん犯人を中心にした家庭像しか描かれないので他にも要因は多々あるのでしょうが、父の行動に大きな原因があったのは間違いなさそうに思いました。

一応犯人は事件当時24歳で立派な成人であり、本来ならもう両親だからと言って責められる筋合いはないと思うのですが、この事件の場合、高校卒業以降自宅に引きこもって社会経験もなく、面会や公判での言動も幼稚そのものですから、両親の責任は重いと言わざるを得ないと思います。

この事件は、死刑を望んで殺人を犯した人間に死刑を与えることが刑罰たり得るのか、というのが大きなテーマになっています。本書を通じて記者も犯人の心変わりを期待していろいろと語りかけてはいるわけですが、多少の心の揺れは見せつつも結局最後まで犯人は考え方を変えることはありませんでした。このような人間を世間に出すのは恐ろしいことだし、仮釈放のない終身刑がないわが国の司法制度の中では、やはり死刑制度を廃止することは難しいであろうという結論にしかなりませんでした。

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