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橘玲さんの新刊を読みました。

橘さんが実際に巻き込まれた民事訴訟を通じて、日本の裁判制度の実情を描き出しています。

概要は以下の通り。Amazonの商品紹介からの引用です。

著者はひょんなことから知人の外国人男性の保険金受け取りをめぐるトラブルの解決を手助けすることになりました。非は完全に保険会社にあることがわかり、すぐに解決するかに見えましたが、事態は思わぬ方向に進展し、ついに「少額訴訟制度」を利用して、裁判に訴えることに。
(中略)
しかし、著者と知人の外国人男性は、摩訶不思議なニッポンの裁判制度の闇に迷い込んでしまいます。どこに行っても、悪い人には会わず、善意の人ばかりなのに、簡易裁判所と地方裁判所をたらいまわしにされ、少額の保険金と賠償が得たいだけなのに、多大な時間と労力を費やすことになってしまいました。一日で終わるはずが、決着を見るまでに何と二年半の歳月が流れていました。
(amazon.co.jp商品の説明より引用)

私は大学で法学部だったので東京地裁に傍聴に行った経験はあるのですが、それ以降は幸か不幸か裁判に関わるようなことはありませんでした。

本書は弁護士は手掛けない、もしくは手掛けることができないような小額の事件について日本の司法制度がどうケアしているのかを実体験を踏まえてまとめたものです。おおまかには民事調停、小額訴訟、簡易裁判が用意されているわけなんですけれど、それぞれにメリット・デメリットがあり、非常にわかりやすく説明されています。

知識としては簡易裁判所とか小額訴訟みたいな制度ができたりとか、ADRとか言うのが普及しているとか、大枠は聞いたことがありましたが、何がどう違うのかどんなケースではどれを利用するのがいいのか、そんな実務的な知識は一切持ち合わせていませんでした。

ひとつには自分がそんな紛争に巻き込まれることはないだろうと高をくくっていた面は否めません。しかし考えてみるとむしろ今まで何もなかったことがラッキーだっただけで、これからいつ問題が降り掛かってくるかわかりません。たぶん振り掛かってくるとしたらそれは突然の出来事なはずで、普段から教養として把握しておかなければいけないことなんだな、と感じました。

著者のケースはかなり特殊なケースと思われるので「そんなことがあるのか!そんなばかな!」ってな具合に(心の中で)叫びながら大変に面白く読み進めることができました。私自身は動力付きの乗り物は有していないので損害保険については全く予備知識がなかったのですが、話を追う上では大きな障壁にはなりませんでした。(とは言っても結末のところは正しく理解できたか怪しい)

本書を読んですごく感じたのは、地域社会の崩壊が国のコストを大きく増大させているのだな、ということです。従来は地域の有力者や裏社会の人たちが丸く治めてきた小額の紛争が、地域の繋がりの消滅や反社会的勢力の抑圧によって、解決手段の多様性を失った結果、すべてが司法制度の下へ集まるようになってしまいました。一方で国の歳出は限界を超えていて公務員たる判事を増員することはままならない現実もあります。少ない人員で増大する紛争を効率よく解決するために、短期で解決するための制度が林立する結果を招き、現在の「司法制度のブラックホール」が出来上がってしまったのでしょう。

正直言って、今の自分にはどうあるべきなのか理想的な状態を思い描くことができません。社会の繋がりが失われつつあるのは、それによって普段は他人に必要以上に捉われることがなく気楽な面が大きいから仕方ない流れだと思っています。裏社会の論理による解決でみんなが納得するとは思えないし、何より自分が泣きを見る可能性がある制度は手離しに受け入れることもできません。一方で人がそれぞれの利益を第一にして生きることは責められることでもないし、多くの人が自分の利益を第一にして行動すれば衝突は避けられないでしょう。最終的にはみなが最も納得感のある解決手段が執られることになるし、それが国家の裏づけのある制度になるのは当然のことだと思います。

結局のところ、一市民として生きていく限りにおいては、仮に問題に巻き込まれたときにどのような手段があるのか、自分で判断して行動できるだけの知識や教養を身につけておくことしかないのだろうと思うのです。

そのための第一歩として本書は最適な一冊だと思います。新書ですが保存版だと思いました。守るべきものがある人は一読すべき現代人必携の書でしょう。

  

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