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ちょっと前の話ですが、2012年11月25日に開催された、明治大学知的財産法政策研究所(IPLPI)セミナー『出版者の権利とその役割』に参加してきました。

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当日の議事録は近日中に主催者側でWebに掲載する予定とのことです(掲載されたら更新します)。また、例によって@hideharusさんによる実況がTogetterにまとめられていますので、詳細はこれらをご参照ください。

明治大学知的財産法政策研究所(IPLPI)セミナー「出版者の権利とその役割」(2012/11/25) #知財ネタ #著作権 #IPLPI – Togetter

大まかな流れは以下の通りでした。

・問題提起
 中山信弘(明治大学研究・知財戦略機構特任教授)
・第一部 基調講演
 「出版者と隣接権制度」上野達弘(立教大学法学部国際ビジネス法学科教授)
 「プロデューサーか、プラットフォームか?出版社の存在理由と、電子出版のライツ動向」福井健策(弁護士・日本大学芸術学部客員教授)
・第二部 パネルディスカッション
 上野達弘(立教大学法学部国際ビジネス法学科教授)
 福井健策(弁護士・日本大学芸術学部客員教授)
 横山久芳(学習院大学法学部教授)
 植村八潮(専修大学教授・株式会社出版デジタル機構会長)
 中山信弘(明治大学研究・知財戦略機構特任教授)
 司会 金子敏哉(明治大学法学部専任講師)

詳細は上記のtogetter(もしくは公式議事録)に譲るとして、自分なりにわかったこと気になったことをつらつらと書き残しておこうと思います。基本的には私の理解の範囲であり誤解も含まれているかもしれませんので、あくまで参考までとしてください。

問題の概要

著作権法は文化の発展に寄与するために公正な利用に留意しつつ著作者の権利を保護することを目的としています。著作権法では無方式主義が採用されており、特許や商標と違って著作物の創作をした時点で自然権として発生します。また、著作権は支分権の束と呼ばれており、複数の異なる権利の集合として構成されていることに特徴があります。まず、著作権という権利が大きく著作(財産)権と著作人格権とに分かれ、さらに著作(財産)権は複製権、上演権、送信可能化権など、著作人格権は氏名表示権、同一保持権など、行為態様によって別個に権利が規定されています。

さらに著作権法には著作隣接権というのがあって、著作者ではないけれど著作物の頒布等により著作権法の法目的である文化の振興に資するものを保護しようとしています。現行法では著作隣接権は実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者にのみに与えられています。

今問題になっているのは、この著作隣接権を出版社に与えるべきかどうか、仮に与えるのであればどのような権利であるべきか、という点になります。

出版社側の主張

出版業界が直面している大きな問題は2つあります。電子書籍の普及と海外での海賊版の横行です。

電子書籍では、AmazonのKDP(Kindle Direct Publishing)に代表されるように、著者とプラットフォーム事業者が直接契約の下に出版することが可能になります。著者が単独で完全な著作物を制作できればいいんでしょうけれど、実際には、出版社による新たな著者の発掘・育成、共著などの企画、辞書や図鑑など単体では赤字になるが公益に資する出版物など、日本の出版文化における出版社の演じる役割は多大なものがあります。これらの事業のコストは少数の文芸・コミックのベストセラーの利益によって賄われているのが現状で、そういう”稼げる著作者”がプラットフォームとの直接契約による電子出版に流れてしまうと出版業界全体が立ち行かなくなってしまう。ただ出版社が潰れるだけなら当人たちを除いて大きな影響ではないけれど、大きく言ってプロデュースにあたる事業を担っていくものがいなくなれば文化そのものの衰退にもつながる危険性がある。この辺りが電子書籍の普及による問題だと理解しました。

海賊版の横行については、多く報じられているようにアジア各国を中心に主にコミックの海賊版が横行している問題があります。最近では日本国内で発行された漫画雑誌が翌日には翻訳されて外国で棚に並ぶこともあるようです。この問題に対して現行の著作権法では出版社は固有の権利を有していないので、自らの名前で権利行使することができないという現状があります。

これら大きく2つの問題から出版社に著作権法上の固有の権利として著作隣接権を与えるべきではないか、というのが現在の議論だということでした。

出版社に著作隣接権を与える問題点

今回のシンポジウムでは慎重派の方が多く登壇されていました。反対する理由は以下のようなものでした。

・一旦権利が設定されると取り上げることは不可能に近い。現在のように権利関係が複雑な世の中で新たな権利を創設することには慎重であるべき。
・今出版業界が置かれている状況は必ずしも著作隣接権を創設しなくとも解決できる手段はあるはずだ。
・例えば、著者とちゃんと個別契約を取り交わして著作権を代位行使するとか、現行の出版権の規定を手直しして問題に対処できるようにするとか。
・他の選択肢が十分に議論されない中で著作隣接権を与えることは拙速である。

レコード製作者と出版社はビジネス形態として類似の役割を演じている事業者であるのに、レコード製作者のみに権利が与えられている現状をどう理解するかについても議論されました。立法論として誰に権利を与えるべきかは国家政策により決まるものであって、個別の事情を考慮して決定されるべき。ビジネス形態が類似であるから権利が与えられるべきというのは当てはまらない。というのが大勢でした。

産業政策というのは国を取り巻く事情によって変化するものですから、ある時は保護すべきと考えられても時が経てば保護する必要がないと考えられることもあり得ます。一方で一旦何らかの権利を創設すると、その権利の上に国民の生活が構築されるので、それを取り上げるのはほぼ不可能であるということも理解できます。

そう考えると特定の人にのみ与えられる権利を安易に創設すべきでないという主張はその通りだと思いました。

議論できること自体が幸運と言う現状はいかかがなものか

出版社の著作隣接権の問題は現在進行形で検討中の事案です。したがって立法されるかどうかは今後の議論に掛かっています。

一方で今年平成24年に成立した著作権法改正で盛り込まれた違法ダウンロードの刑事罰化は著作権審議会を通した法案に対して野党側からの議員立法により内容について何らの議論もなされないままに成立してしまいました。

問題提起の中で中山教授も「まだ公に議論の余地があるという状況は大変ありがたいことであり、大いに議論すべきだ」という趣旨のことをお話しされていました。本来われわれ国民の生活を規定する法律が民主的なプロセスを経ずに成立することの方が問題で、議論の余地があることが幸運である、と考えざるを得ない現状と言うのは大いに問題があると言わざるを得ません。

これは何をおいても国家の構造上の問題であるのは明らかです。国家の運営主体を選択するための選挙が今月実施されます。日々報道される各党の公約を見る限り多くの期待はできないことは承知していますが、少しでもましな世の中になるように慎重に政権を託す人々を選択するようにしたいものです。


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