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2013年1月24日、知財高裁は井村屋グループの出願した商標「あずきバー」の登録を認めないとした審決を取り消す判決をしました。

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「あずきバー」商標認める 井村屋の登録、知財高裁 – MSN産経ニュース

調べてみたら、出願番号「商願2010-052888」のようでした。

(210) 【出願番号】 商願2010-52888
(220) 【出願日】 平成22年(2010)7月5日
    【先願権発生日】 平成22年(2010)7月5日
    【最終処分日】
    【最終処分種別】
    【出願種別】
    【商標(検索用)】 あずきバー
(541) 【標準文字商標】 あずきバー
(561) 【称呼(参考情報)】 アズキバー,バー
(531) 【ウィーン図形分類】
(731) 【出願人】
    【氏名又は名称】 井村屋グループ株式会社
    【類似群コード】 30A01
    【国際分類版表示】 第9版
(500) 【区分数】 1
(511) (512) 【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
30 あずきを加味してなる菓子

引用した産経新聞の記事があまりにも酷いので、私の理解の及ぶ範囲で簡単に補足説明をしてみます。というのもこの事件は商標制度の基本を理解するために格好の素材だと思ったからです。「同法の別の規定を適用し」って何だよ。ちゃんと説明しろ。

なお、私は事件の関係者ではありませんので報道から窺い知れる事実のみに基づいて述べていることはご承知おきください。

まず、商標の基本的な機能について。商標には学説上いくつかの機能が挙げられていますが、最も重要な機能は「自他商品識別機能」というものです。これは、当該商標に接したときに需要者がその商品の出所を識別できるかどうか、というものです。自他商品識別機能を発揮できる程度のことを「識別力」なんて言ったりもします。

例えば、「あずきバー」という名前を聞いた人が「あー、井村屋のあずきの粒が入った棒アイスのことね。」と認識できるかどうか、ということです。

商標法3条1項には一般的に識別力が低い商標の基準が列挙されていて、これらに該当すると基本的に商標登録を受けることができません。識別力が低い商標というのは日常的に普通に使われているものであることが多く、一方で商標権には排他的効力があり制度上は半永久的に更新することが可能なので、誰かに登録を認めると一般人がその名称を使うことができなくなって不利益が大きいからです。

例えば、3条1項1号はこう規定されています。

第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一  その商品又は役務の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

例えば、”あずき”という商品に対して「あずき」という商標を登録することはできません。あずきはどこで誰が作ったあずきであっても”あずき”であって、誰かがその使用を独占すると誰も”あずき”を「あずき」と呼ぶことができなくなるからです。

また、3条1項3号にはこう規定されています。大変長い条文ですが、一般に「記述的商標」などとも呼ばれます。

第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

「あずきバー」は原材料である「あずき」と棒アイスの形状である「バー」を結合したものですから、3条1項3号に該当し、原則的には商標登録を受けられないことになります。

一方で、現実には「あずきバー」のように、一般的に識別力が認められない名称であっても長く使用し顧客満足を得た結果、識別力を発揮するに至るものもあります。このような状況を「特別顕著性」と呼び、例外的に商標登録を認める規定が商標法3条2項にあります。

2  前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

今回の事件は井村屋の「あずきバー」が「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」となっているかどうか、という点について特許庁は「なっていない」と判断し、知財高裁は「なっている」と判断したということです。

商標が特別顕著性を有しているかどうかの判断は実態に即して判断されます。一般的には証拠として使用実績や販売実績、あとは需要者への知名度調査結果などが提出されることが多いようです。産経の記事にも「あずきバーの年間販売本数が2億5800万本(平成22年度)を記録している点などに言及し」とありますね。実務的には判例の積み重ねにより、どの程度の証拠で登録が認められたのかどうかが重要になるのだと思いますが、私も商標の専門家ではないので割愛します。

ちなみに、このような記述的商標が3条2項をクリアして識別力が認められた場合に、もう一点気を付けるべき点があります。4条1項16号です。

第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

商標は、その商標を使用する商品(役務)を指定して登録され、指定した商品(役務)についてしか使用することができません。ここで、商標の示す概念と指定商品との関係で品質の誤認を生じるような場合には登録が認められない場合があります。

例えば、「あずきバー」という商標を使用しながら原材料としてあずきを使用していないような場合です。例えば単純なバニラ味の棒アイスだったみたいな場合。購入する人は当然あずき味のアイスを連想して買うのだけれど、実際開けてみるとあずきは入っていないことになります。これは騙されたと思いますよね。大変迷惑です。

商標法は需要者の利益を保護することを目的としているので、このような事態は商標法の法目的に合致しない事態です。これを避けるために4条1項16号は規定されています。ちなみにこの場合は指定商品を適切なものにすればよいだけです。実際「あずきバー」は「あずきを加味してなる菓子」を指定しているので問題ありません。

長くなりましたが、重要な点は以下の2点です。

  • 商品の特徴を普通に表しただけの名称は基本的に登録できない
  • 使用の結果周知な名称となっていれば例外的に登録される

産経の記事は、あまりにも3条2項の説明がいい加減すぎるように読めます。時事の報道にあたってはその背景も併せて正確に伝えないと意味がありません。でないと、「あー、そうなんだ、ふーん」で終わってしまい、読む側にとっても有益な情報とはなりません。

細かいことを言えば、産経の記事からは「高い知名度」さえ獲得すればどんな商標でも登録されるかのように読めますが、商標法3条2項は、3条1項3号(記述的商標)には適用されますが、3条1項1号2号(普通名称、慣用名称)には適用がありません。つまり、商品の普通名称を普通に表示した商標はどんなに高い知名度を獲得したとしても商標登録されることはありません。「正露丸」の例がよい例だと思います。

記者のレベルが落ちているのか、昔からそんなレベルだけど自分が成長したのかはわかりませんが、何となく年々新聞の記事の質の低下が気になるようになってきました。しかしこうしておかしいと思うことを手軽に突っ込めるというのもまたよい時代だなと思います。


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