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Apple, Google, Oracle, Samsungなど、IT業界のグローバルなプレイヤー達による知財紛争が泥沼の様相を呈してきています。毎日のように流れて来るニュースを見ていると、特許のみならず商標・意匠や著作権までが問題になるケースもあるようです。なので特許紛争ではなく知財紛争と言いました。

個々の事案については数も多いし、かなり高度な技術的な知見が必要になるのでコメントできるような状況にはありません。ただ一つだけ思うのは、もう完全に日本企業は蚊帳の外だなぁ、ってことくらいです。数を追うだけの知財戦略しか持たなかった日本企業の過去を振り返れば、当然の結果とも言えるかもしれません。

さて、そんなわけで注目を浴びている知的財産権分野なのですが、どうも誤った理解が世の中に浸透しているようです。大手のWebサイトでもおかしな記事が載ることが増えてきている気がします。

例えば、日経BPのサイト『Tech-On!』に掲載されたコラムですが、こんな記載がありました。
相見積もりの先に何がある – 日経ものづくり – Tech-On!

メーカーの社長らしき人の独白調で語られる漫画なのですが、会社の営業が新製品を売り込みに行ったら「社内規定で相見積もりが必要なのでその製品の仕様を出して欲しい」とお客さんに言われたとのことです。そこでの一言。

ところがネ
売り込みに行ったうちの新商品
実はコレ うちの会社が
知的財産権を確保してるんです

要するに
うちの会社にしか
できない商品
なんですヨ
だから 仕様を開示するなんて
トンデモナイ話なんですナ

それこそトンデモナイ話です。
明記されていないので知的財産権が具体的にどの権利を指しているのかわからないのですけれど、文脈から推測するに特許権を取得しているのだと思います。

特許権というのは、新規な発明をした人に対して発明の公開の代償として与えられる独占排他的な権利です。特許法は産業の発達を目的としていて、独占排他的に実施する権限を与えることで新しい技術を積極的に公開させることで次の技術開発に繋げようというわけです。

実務的にも特許出願をすると原則として1年6月後に出願公開されて、その技術は世界中から誰でも参照することができるようになるのです。

だから、「うちの会社にしかできない商品」であるのは事実であったとしても、知的財産権を取得したことによって「仕様を開示するなんてトンデモナイ」という結論が当然に導き出されことはないのです。

逆にこの会社にしかできない素晴らしい技術であって開示できないのであれば、それはノウハウとして保持しておくべきです。有名なところではコカコーラの製造方法がありますね。コカコーラのレシピは厳格な秘密保持契約の下にボトリング会社に提供されます。もちろんコカコーラ社は特許出願なんてしていません。国による保護ではなく自分たちでその技術を守ることを選択したわけです。

もし特許を取得していてその技術でなければ実現できない機能を有した製品であるならば、他の会社から相見積もりを取っても、その会社もその特許技術を使わなければいけないわけですから、仮に相見積もりで負けたとしても受注した会社からライセンス料を取ることができるわけです。もしどうしても受注したければ、その特許技術を使用していることを開示して、他の会社にライセンスしなければいいです。(そんな対応をしてお客さんとの関係がこじれなければね。)

このコラムの本題は「猫も杓子も相見積もり相見積もりで叩き合ってる現状は好ましい状態ではない」という点にあることは理解できます。その展開のために「俺らも必死で物作ってんだ、このやろう」という思いを込めているんだと思います。その主張自体はもう諸手を挙げて賛成なのですけれど、細部であるからと言って真実を曲げて説明するのはいただけません。

Webメディアに限らず新聞テレビも怪しい記事や番組をときどき見掛けます。どうやって内容の検証をしているのかわかりませんが、この記事で誤った知識で失敗する人もいるかもしれません。多くの人たちの行動に影響を与える仕事だということを意識して丁寧な仕事をしていただきたいと切に願います。


ちなみに、この記事を取り上げた一番の理由は、原作者の所属企業のHPを覗いてみたら、一番に「知財戦略」とか書いてあってこれがプロの仕事か?と疑問を持ったからなのでした。本当にお願いしますよ。

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