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2012年12月の衆議院総選挙から臨時国会の首班指名により安部晋三自民党総裁が内閣総理大臣に返り咲きました。自民党政権が主導するリフレ政策はアベノミクスと呼ばれ、その経済政策への期待感から、民主党の野田前首相が衆議院解散を明言した2012年11月16日を起点としてほぼ一方向の株高円安が進行しています。

そんなわけで日本経済の先行きに対して国民的な関心が高まっているように感じます。私の記憶ではリーマンショック前夜の2006~2007年あたりの雰囲気に近いような感じがします。あの頃もドル円が124円、日経平均株価が1万8千円台まで進行し、大手輸出関連企業は史上最高益を軒並み達成と、預金金利が上がらないこともあって国民的に投資熱が高まっていた時期でした。

本書を読めばこの時期の大手企業の史上最高益もその後のデフレ進行の一因だったことがわかるのですが、それは後ほど触れます。

本書は日本経済の常識とされている事柄がもはや常識ではないことを様々なデータを取り上げて図表を駆使して説明し、日本経済が低迷する原因を追及することを目的とした書です。

本書の目次はこうなっています。

第1章 アメリカ国債の謎(コナンドラム)
第2章 資源価格高騰と日本の賃金デフレ
第3章 暴落とリスクの金融経済学
第4章 円高対策という名の通貨戦争
第5章 財源を考える--消費税の段階的増税vs.デリバティブ国債

本書の主張を簡単にまとめるとこういうことだと思います。従来のグローバル経済は米国の旺盛な消費力によって支えられていました。すなわち、米国が多大な財政赤字を抱える一方で日本や中国などの貿易黒字国が米国国債を買い支えるという循環が成り立っていたということです。しかし米国も際限なく赤字額を拡大するわけにもいかないので緊縮財政により経常収支の改善に取り組みました。

米国の財政赤字が縮小することで行き場をなくなったマネーはコモディティ市場に流入します。これが国際的な商品市場の高騰を招きました。商品市場の高騰は原材料費の高騰を意味しますが、この製造コストの上昇を製品価格に転嫁できない企業が多く、その状況が人件費の抑制を招きました。これが賃金デフレと呼ばれる現象です。

企業は利益を出せる状況になっても従業員の給料は減り続けました。企業の従業員は一方では消費者でもありますから、消費余力が減退し需給ギャップが広がることになり、企業は設備投資に積極的になれず内部留保を積み立てる結果になりました。本来資源価格の高騰はインフレ要因です。しかし上記のメカニズムで逆にデフレ要因になっているということです。

本書は新書ですから想定読者は経済学の専門知識を有していないビジネスパーソンだと思われます。そのためだと思いますが、多くの図表を駆使して分かりやすい解説を努めている姿勢は感じられました。しかし、扱っている事象が広範に及ぶため、個々の説明が薄くなっている面は否めません。私の経済に対する知識などは、ニュース、雑誌、新書程度ですから、逆に理解が難しい部分が多かったです。上記の内容にも誤解している部分もあるかもしれないし、正確ではない記載もあるでしょう。

まとめると、本書は新書という出版形式を選択したことで、読者に要求する前提知識にも紙幅にも制限が生じているわけですが、その制限の中で扱うにはあまりにも高度な内容を取り上げているように思います。何とかわかり易く説明しようとはしているものの、結果としては余計にわかり難い状態になってしまった面があるような気がします。

本書の発行は2011年11月であり、民主党政権下の経済状況で書かれたものですから、大筋のところは今になって読むとそんなに新鮮な内容ではありません。しかし逆に今だからこそ理解し易い面もあったと思います。

本書の主張が正しいとするならば、原因は従業員の賃金が上がらず消費意欲が減退していることが根本にあります。安部政権は企業に対して賃金を上げるよう異例の要請を行いました。多くの批判もあります。私も政治家が民間企業の賃金に口出しするのはいかがなものかというのが率直な感想ではあります。しかし、従業員の賃金が上がるようにするというのは極めて直接的な対処に見えます。

また、安部政権は日銀に対して2%の物価上昇目標を明言させました。日銀の独立性から疑問の声も上がっています。目標の独立性とか手段の独立性とか小難しい解説も目にするようになりました。しかし、現在の日本経済はデフレ脱却こそが全てを置いて重要なことであるのは明らかで、インフレになるまで金融緩和をするのはやはり直接的な対処に見えます。

多くの批判もあるアベノミクスですが、日本を取り巻く経済問題に対して極めて直接的な政策を実行しようとしているだけであることがわかります。もちろん直接的過ぎてその副作用がわからないという批判はもっともだと思いますが、まずは直面している問題を解決する姿勢は評価すべきだと思いました。

何しろ民主党政権では何が問題なのか正しく把握できていなかったように思えます。正しく問題設定できている時点で、少なくとも経済分野に関しては政権交代は正解だったと、私は思います。

ちなみに、以前読んだ同じ著者の『金融広告を読め』という本はとてもよかったです。もう絶版なのかもしれませんが、ご紹介だけしておきます。

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