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2013年2月28日、アップルとサムスンのスマートフォンに関する特許権侵害訴訟に関して、東京地方裁判所が特許権の侵害はないとの判決をしました。

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(アップル・サムスン特許訴訟:スマホ特許、アップル勝訴 携帯データ送信技術−−東京地裁- 毎日jp(毎日新聞)より引用)

記事中に「一部の携帯電話に必須な技術で公正に差別せず利用を許可する用意がある」とありますが、これはいわゆるFRAND条件(fair,reasonable and non-discriminatory terms and conditions)というもので、標準化規格に特許技術を採用する場合に、その特許権者に対して「公平、合理的かつ非差別的な条件」でライセンスすることを求めるものです。そうしておかないと一部のメンバーに有利な立場が与えられてせっかく標準化しても誰も使わなくなることにもなりかねません。

さて、地裁レベルだと全ての判決文が公開されるわけではないようなのですが、今回は無事に判決文が公開されたようですので、見に行って来ました。(判決文へのリンクはこちら。→平成23年(ワ)第38969号 債務不存在確認請求事件(pdf))

本件は2011年4月にサムスンが自社の特許に基づく販売差し止めの仮処分を申請したことへ対抗して、2011年12月にアップル(原告)がサムスン(被告)を訴えた債務不存在確認訴訟です。サムスンがアップルによる特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた訴訟ということです。

判決文によると、対象のサムスンの特許は特許第4642898号です。概略はこんな感じで、携帯電話等の移動体で3G回線等の無線によるパケット通信を効率的に行う技術です。

【出願番号】特願2008-507565(P2008-507565)
【出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)

【公表番号】特表2008-538480(P2008-538480A)
【公表日】平成20年10月23日(2008.10.23)

【特許番号】特許第4642898号(P4642898)
【登録日】平成22年12月10日(2010.12.10)

【発明の名称】移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置

20130326110129058269

【発明が解決しようとする課題】
【0013】
 したがって、上記の従来技術による問題点を解決するために、本発明の目的は、パケットサービスを支援する移動通信システムで、無線リンク制御階層のプロトコルデータユニット(RLC PDU)のヘッダーサイズを減少させて無線リソースを効率的に使用する方法及び装置を提供することにある。
 また、本発明の目的は、上位階層パケットを複数のRLC PDUに分割する方法及び装置を提供することにある。

この技術は、携帯電話システムの標準化プロジェクト3GPP(Third Generation Partnership Project)のUMTS規格(Universal Mobile Telecommunications System)の必須技術に含まれるものです。ちなみにUMTSは日本ではW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)と呼ばれる通信規格です。

一方、対象のアップルの製品は以下の4製品です。訴訟提起時の現行機種だったんでしょう。すでに販売終了している機種ばかりです。
※iPad 2はまだ販売しているんですね。びっくりしました。

(別紙) 物件目録
1 「iPhone 3GS」
2 「iPhone 4」
3 「iPad Wi-Fi+3Gモデル」
4 「iPad 2 Wi-Fi+3Gモデル」

判決文では争点が6つ挙げられています。争点1~4は特許権侵害訴訟において一般的に争点となるところだと思います。やはり争点5,6が本件の重要な争点になります。

 本件の争点は,①本件各製品についての本件発明1の技術的範囲の属否(争点1),②本件発明2に係る本件特許権の間接侵害(特許法101条4号,5号)の成否(争点2),③特許法104条の3第1項の規定による本件各発明に係る本件特許権の権利行使の制限の成否(争点3),④本件各製品に係る本件特許権の消尽の有無(争点4),⑤被告の本件FRAND宣言に基づくアップル社と被告間の本件特許権のライセンス契約の成否(争点5),⑥被告による本件特許権に基づく損害賠償請求権の行使の権利濫用の成否(争点6)である。

判決では、争点1について以下のように判断しています。

ア 以上のとおり,本件製品1及び3は,本件発明1の技術的範囲に属さないが,本件製品2及び4は,その技術的範囲に属する。そして,本件発明2は,本件発明1の送信装置におけるデータの送信方法の発明であり,両発明の構成は共通すること(争いがない。)によれば,本件製品1及び3におけるデータ送信方法の構成は,本件発明2の技術的範囲に属さないが,本件製品2及び4におけるデータ送信方法の構成は,その技術的範囲に属するものと認められる。
イ 前記アによれば,原告による本件製品1及び3の輸入,販売等は,本件特許権の侵害行為に当たらないというべきである。

要するに、iPhone 3GS(製品1)とiPad WiFi+3Gモデル(製品3)はサムスンの特許技術を使用していないが、iPhone 4(製品2)とiPad2 WiFi+3Gモデル(製品4)はサムスンの特許技術を使用している、ということだそうです。

争点2~5についての裁判所の判断はありません。

続いて争点6の判断が述べられています。

 そうすると,被告が本件特許権についてFRAND条件によるライセンスを希望する具体的な申出を受けた場合には,被告とその申出をした者との間で,FRAND条件でのライセンス契約に係る契約締結準備段階に入ったものというべきであるから,両者は,上記ライセンス契約の締結に向けて,重要な情報を相手方に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である。

 FRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許についてのFRAND条件によるライセンスを希望する申出は,許諾対象特許の有効性を留保するものであったとしても,その申出の内容が許諾対象特許が有効であることを前提とする具体的なものであり,FRAND条件によるライセンスを受けようとする意思が明確であるときは,上記申出により,FRAND宣言をした者と上記申出をした者との間で,前記(ア)の信義則上の義務が発生するというべきである。

 上記①及び②に鑑みると,被告は,アップル社の再三の要請にもかかわらず,アップル社において被告の本件ライセンス提示又は自社のライセンス提案がFRAND条件に従ったものかどうかを判断するのに必要な情報(被告と他社との間の必須特許のライセンス契約に関する情報等)を提供することなく,アップル社が提示したライセンス条件について具体的な対案を示すことがなかったものと認められるから,被告は,UMTS規格に必須であると宣言した本件特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の締結に向けて,重要な情報をアップル社に提供し,誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反したものと認めるのが相当である。

本件特許はW-CDMA方式の必須技術であるところ、サムスンはFRAND宣言をしているのだからアップルに対しても誠実にライセンス交渉を行うべき信義則上の義務を負っているが、認定事実によればサムスンはその義務を果たしていないから、権利の濫用に該当してその特許権を行使することは許されない、ということです。

標準化技術に自社の特許技術が採用されるということは、競争上かなり有利な立場になるということを意味します。特に情報通信技術では繋がらないことには話にならないわけで、メーカーは何らかの標準化技術に準拠しなければいけないことになりますが、それはダイレクトに他社の特許を実施している状態になるわけです。

そうするとみんなが標準化規格を安心して利用できるようにするには選択肢は2つです。すなわち、標準化規格に取り込む特許の権利をある程度制限する、もしくは標準化規格から特許技術は一切排除する。そのいずれかになります。

しかし有用性のある標準化規格を制定するには優れた技術を取り込まないといけません。でないと制定したはいいけれど誰も使ってくれない無駄な規格になってしまいます。そこで特許権者へ一定のインセンティブを与えつつ標準化の要請に応える方法として現状利用されているのが、FRAND条件だということになります。

今回の判決は、そもそもFRAND条件を呑むことで標準化規格に採用されているんだから言ったことはちゃんとやってから文句言えよ、ってことだから、結論としては至極当たり前のようにも思えます。

重要なのは今後もFRAND条件のようなもので標準化と特許の問題を処理していくのであれば、ではどういう風にしたら誠実に交渉を行ったと言えるのか、というケースの積み上げの問題になるんだろうと思うわけです。

判決文に書かれている経過を見ると、さすがに今回のサムスンの対応はないんじゃないの、というのはたぶん多くの人が感じると思うんですけれど、ではもっと微妙なケースで交渉が決裂したような場合などに、どんな基準で処理していくのかとか、さらなる判例の積み重ねが必要になってくるんなんだろうなぁ、などと感じます。


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