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ダイヤモンド社が雑誌のバックナンバーを電子化して図書館で貸し出すという話を取り上げたブログ記事が注目されていました。

雑誌のバックナンバーを電子化して図書館で貸し出しって、こりゃ駄目だろ – 世界はあなたのもの。(http://d.hatena.ne.jp/the-world-is-yours/20130602/p1)

問題の記事の内容

2013年6月2日の日経朝刊19面、「経済誌のバックナンバーを電子化 図書館向けに」より。
(中略)

利用者はまず、この「デジタルアーカイブス」を購入した図書館にタブレット端末やスマートフォンから登録。ログインして目次や著者名から記事を検索し、読みたい号を1冊単位で ”借りる” ことができる。図書館が定めた貸出期間中は、表紙や広告を含めて全ページを端末上で閲覧できる。

(中略)

1人の利用者が借りている間は他の人はその号を閲覧できない。

(中略)

貸出期間が終わるとその利用者は自動的に閲覧できなくなる。あくまで図書館で紙の本を貸し出す仕組みを踏襲したものだ。

踏襲すんなや。なんでデジタルデータを借りたり閲覧するのに並んだり予約しないといけないんだよ。もうやだ。

雑誌のバックナンバーで昔の記事を読み返したいときって結構あるんですが、色んな記事が載ってるから一つの記事だけが読みたいときだとなかなか雑誌全体を取り寄せて読むところまではいかないんですよね。特にそういう時って今すぐ調べたいときだったりするから、1週間も2週間も待ってられないですし。

で、上掲のブログの筆者の方(以下、後藤さん)は、同時に複数人が閲覧できないことに対して突っ込んでいたわけです。何のために電子書籍にしたんだアホか、と。私も同感です。極めて通常の感覚だと思いました。

何でこんな仕様になってしまうのか

何が問題でこんなヘンテコな仕様になってしまったんだろうな、と考えました。おそらく同時に一冊の電子書籍を複数人が借りられると同時に2つの電子書籍端末で同一の書籍が閲覧可能になるわけで、その電子書籍の複製利用に該当する(もしくはそう判断されるおそれがあると判断した)んじゃないかと思いました。

一応、著作権法には、図書館に所蔵された本を複製できる態様が規定されています。31条1項です。逆に言えば、これ以外の複製は権利者の許諾がなければ許されません。

(図書館等における複製等)
第三十一条  国立国会図書館及び図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるものにおいては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料を用いて著作物を複製することができる。
一  図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分の複製物を一人につき一部提供する場合
※括弧内省略

後藤さんの意見は極めて真っ当な御意見だと私は思います。物理的な本は一冊しかないから誰かが持って行ったら返ってくるのを待たなきゃいけないけれど、電子書籍であれば物理的な制限が外れるわけだから待たなければいけない理由がありません。物理的な本であっても、たまたま誰も借りていなければその人がその本を借りることに関しては無制限に無期限に借りられるのと同じですからね。それと同じ状態になるだけなのに、何がいけないと言うのか。

無関係だけど批判に反論してみる

と思ってブコメ(はてなブックマークのコメント)などを眺めていたんだけれど、的外れな批判がいっぱいで後藤さんが可哀そうでしかたありませんでした。何て残念な人たちなんでしょう。

一番ひどかったのはこれ。

houjiT ライセンスを無視してソフトを使いまわすのと一緒と理解。/電子書籍界隈はなぜこうも「作っている側への還元」を忘れる人が出てくっかね。

何も理解できてないですね。

まず記事を読めばわかる通り貸出期間は制限されるわけです。その前提で、電子書籍のメリットを活かせる利用形態にするべきなんじゃないの、って議論ですよね。無制限にコピーできるようにしろなんて誰も一言も言ってません。

ソフトで言えば試用版といっしょです。全機能使えるけど期間制限があるとか、買わないと一部の機能が使えないとか、いろんなやり方してますよね。どんな制限をするかは提供者が決めることです。

そもそも「作っている側への還元」を言い出したら現行の図書館の存在も否定する話で、電子書籍は全く関係ありません。

黙って上向いて口開けてても何も還元されませんよ。

mohno “貸出”の料金が設定されてないから、“購入”したものを貸し出そうとするからでしょ。

ちょっと何言ってるのかよくわからないけど、他にも有料にすりゃいいんじゃないか、という意見がありました。でも、図書館は図書館法17条で、利用者から貸出の代金を受け取ることはできません。利用料をとったら、それはもはや図書館ではありません。

(入館料等)
第十七条  公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。

有料の電子雑誌閲覧サービスっていうのはありだと思うんですが、ここでは話が発散してしまうので割愛します。あしからず。

ペイパービューの利用料が好ましいのではないか

図書館で電子化した雑誌を貸し出しするにあたって、電子書籍の利点を活かした形で利用できるようにするためには、どういう形態が望ましいんだろうかと考えてみました。

電子書籍の利点はやはり物理的に固定されていないことですから、同時に複数人でアクセスできるのが望ましいのは自然な考えだと思います。当然ながら創作によって生計を営んでいる人の収益を確保できることは大前提です。

こうした事情を考えると、一冊丸ごとの売りきりではなくて、利用ごとに課金されるペイパービュー方式のライセンスが好ましいように思えます。実際、そういうコメントも多く見られました。

そうなった場合に問題になりそうなのは、図書館が数多くある出版社の個々と契約をして一定期間ごとに利用回数だか利用時間だかを集計して精算処理を行わなければいけないことです。出版社側も全国津々浦々の図書館から毎月膨大な利用明細が来て、個々に請求書を発行して、入金確認してと、相当な事務処理量が増えそうです。

そういう事務処理に耐えられる大手の出版社のみが提供できる仕組みになってしまうと、民間の有償のサービスであるなら別として、公共の図書館のサービスであることを勘案すると好ましい状況とは思えません。

そこでJASRAC方式はどうだろう

実は、現在の日本の著作権制度の中に、そうした煩雑な事務処理を解決している仕組みがあります。日本音楽著作権協会JASRACです。

JASRACは、数多くの作詞者、作曲者、レコード出版者などの権利者が持つ権利について演奏、放送、録音、ネット配信などさまざまな利用に対して権利処理、要するに利用料の徴収を代行する組織です。

同じように電子書籍に関して、著者、出版社から著作権の管理委託を受けて、図書館からの利用明細を集計して徴収した使用料を分配する仕組みを作ったら解決できそうな気がします。

でも何らかの制限は必要かも

もう一つ問題があるとすれば、図書館の予算を超えて利用されちゃった場合でしょうか。公共の図書館は自治体の予算で運営されていますから、年度ごとに定められた予算の中で購入する書籍を決めているはずです。利用者が手当たり次第に借りまくって莫大な使用料が積み上がってしまうと洒落にならない状況になりそうです。

これはなかなか難しい問題です。私には画期的な解決手段は思い浮かびませんでした。図書館全体の同時貸出冊数を制限するとか、一人あたりの月間貸出冊数を制限するとか、結局は何らかの制限を設けないといけないかもしれません。できれば受益者負担の原則で制度設計されるとなおよいですね。

もちろん、物理的な書籍を扱う現行の図書館がそもそもおかしんじゃないか、という議論があることは承知しています。私も文庫本とか文芸書とかまで公共の図書館に置く意味あるのか?っていうのは率直に言って疑問に思います。でもたぶんほとんどの利用者はそういう本を借りているから図書館も収蔵せざるを得ないんでしょうね。難しいところです。

私も仕事の関係で法律関係の本とか買うんですけど、高いんですよね、とんでもなく。本当に必要なのはその一部だけなのに。個人で買うにはあまりにも高い書物を図書館が収蔵してくれて、みんなでちょっとずつ利用すると言うのは、経済効率を考えればどうしても必要な仕組みだと思っています。

まとめ的な何か

根本的には現行の著作権法がデジタル化に十分に対応できていないことが原因です。残念ながら昨今の著作権法改正は権利者のロビー活動が功をなしてか利用者の利便性などは後回しで権利者の利益確保を目的とした改正ばかりになっています。

まずは、こんなもんだと思考停止に陥らずに、おかしいと思ったことはおかしいと声を上げることが重要なんじゃないかな、と改めて思いました。

そんなことないですよ。こういう問題があるって世間が認識するだけで十分意味があることです。私なんかは日経新聞なんてぼったくり情報商材を購読する余裕なんてありませんから、こういう情報が得られるだけでとても助かります。


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