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宇多田ヒカルさんのTwitter上での発言がちょっと話題になっていました。

話の経緯はこうです。

宇多田ヒカルさんがお気に入りだったお母さんである藤あや子さんが「面影平野」を歌う動画がYouTube上で削除されていることがわかって、削除される前に「ダウンロードしておけばよかった」と発言したところ、フォロワーさんに違法であることを指摘された際の一言です。元の動画を見ていないのでわかりませんが、YouTubeで一旦アップロードされた動画が削除されるのは大概著作権者からの申告によるものですので、著作権者の許諾なしにアップロードされた動画であったことが想像できます。

まず2010年1月に施行されている現行著作権法と2012年10月施行の改正著作権法で、このケースがどう扱われるかをを整理してみます。

まず、著作物をインターネット上に公開する行為は自動公衆送信における送信可能化する行為であり、著作権者の許諾を得ていない限り、著作権者の公衆送信権を侵害する行為です。著作権を侵害したものには10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金という刑罰が定められています。

2010年1月の著作権法改正以前は、インターネット上に公開されている動画をダウンロードする行為は私的複製の範囲に属し著作権が制限されていました。しかし、2010年1月施行の現行著作権法では故意に、つまり違法にアップロードされたことを知りながらダウンロードした場合には私的複製の範囲に含まれず著作権を侵害することになりました。これがいわゆるダウンロード違法化です。

2012年10月施行予定の改正著作権法では、この違法ダウンロードをした者は2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金が課されるようになります。これが違法ダウンロードの刑事罰化です。

違法ダウンロードのの刑事罰化による問題点は大枠としては、日本弁護士連合会やインターネットユーザ協会(通称MIAU)による反対声明に挙げられていますので、そちらを参照ください。
MIAU(インターネットユーザ協会)の声明
MIAU : 『違法ダウンロード刑事罰化』について、議員向けの反対声明を発表しました。
日本弁護士連合会の声明
日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に関する意見書
日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に反対する会長声明

さて、宇多田ヒカルさんのケースに戻ります。元のYouTubeの動画が著作権者の許諾なくアップロードされたものと仮定します。でないと話が進みませんので。これは著作権者の公衆送信権を侵害する行為です。

この動画を宇多田ヒカルさんが何らかの方法でYouTubeからダウンロードした場合、現行著作権法では違法行為となります。刑事罰は課されませんが、不法行為による損害賠償という民事上の責任は負うことにはなるでしょう。これが改正著作権法下では2年以下の懲役もしくは200万円以下の刑事罰が課される可能性があります。もちろん民事上の責任は変わらず負うことになります。

※プログレッシブダウンロードの解釈次第では、YouTubeの違法アップロード動画を視聴するだけで対象となるような議論もされています。個人的には著47条の8に規定される「情報処理を円滑かつ効率的に行うために必要な限度」に含まれて著作権侵害行為にはならないと考えています。文化庁も同じ見解のようです。ただし最終的には裁判所がどう解釈するかに依ります。

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

大元の藤あや子さんの動画は違法にアップロードされたものであることを前提にしましたが、この動画が例えば、誰かがテレビ番組を録画したものだとしましょう。あるいは昔発売されたけれどすでに絶版となっているビデオに収録されていたものだとしたらどうでしょう。

これらがインターネットに公開されて誰が損害を負うでしょうか?もちろん最近に放送されたものであれば再放送のときにスポンサーが付くかもしれないし、これがYouTubeで観れるせいで視聴率が下がるかもしれません。もしくはDVD化されるかもしれませんが、YouTubeに上がっている動画のせいで売り上げが上がらないかもしれません。

でも私の感覚では、そもそもテレビで放送された歌番組がDVD化されるなんて考えもしないです。それが発売されても買うことはないでしょう。本当にその歌手が好きなら買うかもしれませんが、それくらい好きならYouTubeにあるから買わないという話しにはならないのではないでしょうか?仮にその番組が再放送されたとして、YouTubeで観ればいいからテレビでは観ないよ、となりますか?

絶版となったビデオの場合はもっと理解できません。あの歌手があの曲を歌っている映像があのビデオに載っていたはずだと知っていることも不自然だし、それをわざわざ中古市場を探して入手するんでしょうか?そもそも中古市場で購入したとしても著作権者には一切の利益はありませんよね?

おそらくテレビ番組で歌っている場面が動画に映っていれば視聴者は気付きます。それをアップロードした人がテレビ局やレコード会社の公式アカウントでなければ許諾なくアップロードされていることはわかります。これは故意にダウンロードしていますので現行法ではこのようなケースでも違法になりますし、改正法ではこれに刑事罰が課されます。

少なくとも藤あや子さんにとっては、こういう制限で露出が減るくらいであれば、仮に違法であっても観てもらった方が得だと思います。続々と新しいアーティストがデビューしてくる競争の激しい芸能界の中で、一番恐ろしいのはファンから忘れられることだからです。

こう考えてくると、ダウンロード違法化から違法ダウンロード刑事罰化の流れの中で得をするのはレコード業界の人間だけだと言うことが見えてきます。一方でこれらの法制によって一般人が触れることができる音楽はレコード業界が売りたい音楽に限定されるようになっていきます。本来音楽は文化であって、多様な音楽から新しい音楽が生まれて来ると思うのです。似たような音楽にしか触れることができない貧弱な環境からは二番煎じのような誰が歌っても変わらない音楽しか出てこないのではないかと。

実際、最近はアルバムをリリースしても数曲はカバー曲が入っていて、すでに新しい音楽を生み出す努力を放棄しているようにすら見えます。

違法ダウンロード刑事罰化に反対と言うと、どうしても何かやましいことをやっているいかがわしい奴なんじゃないかと思われがちです。一応自分も、実際にインターネット上でのファイル共有によって本当にレコード業界が損害を受けている面はあると思っていて、それは健全な経済発展のために防止する必要があると思っています。

しかし、何でもかんでも禁止禁止で、破れば罰則罰則で、しかもそれは一部の既得権者の意見のみを投票と引き換えに取り上げている現状は看過できない状況だとも思っています。しかも政権与党が法案の中身に関係なく消費増税したいがためのバーターで国会を通すようでは、すでに日本の民主主義は死んでいるとしか考えられません。

何とかしたいですね。何とかできる政治家はいないんでしょうか。


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