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NHKで放送されていた人気番組『プロジェクトX』の電子書籍版です。書籍版は何話かをまとめて単行本にして出版していたと記憶していますが、電子書籍では各回ごとに分冊して販売しているようです。一冊100円です。

本書は2002年11月5日放送の第101回を書籍化したものです。テーマはキヤノンの開発した普通紙複写機『NP-1100』の開発秘話です。

主人公は2人。1人は「複写機の鬼」と呼ばれた田中宏氏。もう1人は「日蔭の特許マン」丸島儀一氏。田中氏はオリエンタル写真工業で複写機の開発に従事していましたが、会社が事業を撤退することになり、複写機の開発ができる職場を求めてキヤノンへ転職した人物です。丸島氏は電気技術者として入社するも特許課へ配属となり腐っていましたが、複写機のプロジェクトにすべてを捧げます。田中氏は最終的に副社長に、丸島氏は専務取締役へ登り詰めたようです。

当時、普通紙複写機は米国ゼロックス社の市場シェアが100%でした。ゼロックスは普通紙複写機に関する基本特許を600件以上保有しており、これを避けて製品化することは不可能と考えられていたからです。

田中氏を中心とするキヤノンの製品研究課はゼロックスとはまったく異なる方法で複写を実現しなければいけませんでした。田中氏と丸島氏は積み上げれば1メートルにもなる600件の特許公報を1件1件読み込みます。

丸島氏はこう言います。

「正月の三が日以外、毎日会社に出ていました。肉体的には結構しんどかったですけれども、精神的には充実していましたね。やっと、やり甲斐のある仕事が見つかったという感じで、以前はあれほど長く感じられた一日が、短くてしかたなかった」

そうして田中氏にあるアイデアが浮かびます。

「電気を通さない絶縁層で、感光体を覆ってしまおう」

ゼロックスの特許は、感光体への帯電から感光体表面への露光が2ステップで行われているけれど、この方式であれば、帯電と露光を同時に実行できるはずという発想でした。

試験により理論の正しさを確認した田中氏たちは実用化に向けた製品開発に邁進します。同時に丸島氏はその理論を権利化するために各国への特許出願を進めていきます。その後も数々の技術的な問題に直面しながらも、キヤノンの開発した新しい原理による普通紙複写機「NP(New Process)システム」は大々的に発表されます。

ここから王者ゼロックスの反撃が始まります。ゼロックスはキヤノンの特許無効をイギリス特許庁へ申立てます。特許無効の理由は、キヤノンの特許はゼロックスの出願した特許により開示されているというもの。特許が無効になれば、それはゼロックスの特許を侵害していることも意味します。

「この争いに勝てるのか、それとも、勝ち目はないのか」
 経営陣は、丸島を呼ぶと判断を求めた。
「勝ちます」
 丸島は、簡潔に答えた。

結果として、キヤノンの特許は維持されます。NP-1100が発売された1970年から13年後の1983年、ついにキヤノンは台数ベースでゼロックスを抜き、世界一のコピー機メーカーとなります。キヤノンはその後も特許重視の経営戦略を展開し、1987年には米国の特許取得数で頂点になります。

私は以前、丸島氏の書いた『キヤノン特許部隊』という本を読んだことがありました。ずいぶん前なのであまり覚えていませんが、大変感動したことだけは覚えています。新書だし相当前に出版されたはずなのですがまだ絶版になっていないようです。本書は番組の性質上だと思いますが開発側の視点が中心に描かれていますので、こちらも併せて読むとより深く味わえるのではないかと思います。

本書は全部で47ページ。1時間強で読破できる分量です。こういう売り方は電子書籍ならではだと思います。すでに単行本として賞味期限が切れた本は、こういう形で小分けにして販売してくれれば手が出し易いと思います。短編集とか一話完結型のコミックとか、いくらでもやりようがあると思うんですよね。電子書籍の可能性も感じさせてくれる一冊でした。

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