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先日読んだ『東電OL殺人事件』の続編です。勢いで読みました。
その時の書評はこちら→『東電OL殺人事件』佐野眞一(著)

前作は事件の発生から東京地裁の無罪判決までを描いたものでした。今作はその後に東京高裁への控訴、再拘留決定、東京高裁の逆転有罪判決、最高裁への上告までを描いたものです。

ここで一応事件の経緯をまとめておくと、こんな感じです。

  • 1997年3月8日 事件発生(殺害推定時刻)
  • 1997年3月19日 渋谷区円山町のアパートで遺体発見
  • 1997年5月20日 ネパール人男性を逮捕
  • 1997年6月10日 東京地検がネパール人男性を起訴
  • 2000年4月14日 東京地裁で無罪判決
  • 2000年4月18日 東京地検が控訴、再拘留要請
  • 2000年5月8日 東京高裁が再拘留決定
  • 2000年12月22日 東京高裁で有罪判決(無期懲役)、弁護側上告
  • 2001年7月5日 弁護側上告趣意書を提出
  • 2003年10月20日 最高裁で上告棄却、有罪確定
  • 2005年3月24日 被告が東京高裁に再審請求
  • 2012年6月7日 東京高裁が再審開始決定
  • 2012年6月15日 被告のネパール人男性、帰国

この流れにあてはめると、本書は2000年4月14日から2001年7月5日までを描いたものです。また、その流れの中で、前作に寄せられた読者の感想や読者へのインタビューなどを交えつつ、事件(とそれを明るみに出した前作)が世間に与えた影響を分析しています。

事件に関する新事実は何も明らかになりません。新たな証拠は何ら出てこないにも関わらず、一審の無罪判決が8か月で逆転有罪になったわけです。

本書の一番のテーマは司法の腐敗です。一審で無罪となった被告の再拘留を決定し東京拘置所に閉じ込めたのも、不条理な逆転有罪判決を下したのも東京高等裁判所でした。実は高裁は一旦は東京地検の再拘留要請を却下したにも関わらず19日後に再度の再拘留要請に対して再拘留を決定します。

この相反する2回の再拘留要請に対する決定にいずれも関与していた村木保裕判事はその後児童買春で有罪判決を受け弾劾裁判により裁判官を罷免される男です。

また、逆転有罪を下した東京高裁の高木俊夫裁判長は、2010年3月26日に再審により無罪が確定した足利事件で控訴棄却をし、また冤罪の疑いが高い事件として有名な狭山事件において再審請求棄却の決定をした、そんな人物です。

足利事件も東電OL殺人事件も近年になって再審により冤罪であったことが明らかになっていますから、日本の司法は過去の遺産を少しずつ払拭しつつあるようには思えます。残念ながら高木俊夫氏は2008年に亡くなっているようで、自分が行った重大な過ちの結末を見届けることはなかったようです。

本書は前作と比較するといかんせん消化不良な感は否めません。上記の2名の裁判官を引き合いに司法の腐敗を描き出そうとはしているのですが、明らかに事件に対しては傍論に過ぎず前作ほどの魅力は感じられませんでした。

自分が一番印象に残ったのはエピローグでした。前作も今作の本編も実は被害者の東電OLの素顔についてはあまり多くを描かれていませんでした。どちらかと言うと、堕落した聖女のような高尚な人物のようにさえ見える描かれ方をされてきました。しかしこのエピローグだけは普段の彼女を知る人物のインタビューから奇人ぶりを率直に描いています。

前作を読んでいるうちにもちょっと美化しすぎなんじゃないかと感じる部分が多少感じられました。その中で最後にこのような記述が入ったことでとても公平感を感じられたし、自分の中ではこの事件について一区切りを付けることができたような気がします。

書物としての出来で言えば圧倒的に前作の方が高いです。それでも、併せて読むことで初めて完成する、そんな感じの続編でした。

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