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※wikipediaより引用

ロンドンオリンピックが本日開幕ということかどうかは知りませんが、ここ1ヶ月ほどで不正B-CAS問題による摘発事案が多く報じられてきました。

ネット上で不正B-CASの作成方法が出回っているのを見て「これはどストライクでアウトだろ」と思っていたので、まぁ当然くらいにタイトルだけ流し見する程度でした。

でも今週になって不正B-CASを購入して使用した人まで摘発されたのはちょっと予想外でした。なので、ちょっと改めてどんな行為がどんな容疑で摘発されているのか、まとめてみようと思ったのでした。

事案の整理

発端は、ある人(甲)が、不正に作成したB-CASカードをネットオークションで販売した行為により不正競争防止法違反容疑で逮捕されたことでした。

2012.6.19 不正B−CAS:販売容疑で逮捕…全国初、京都府警- 毎日jp(毎日新聞)

 デジタル放送を視聴するためにテレビなどに差し込む「B−CASカード」を巡り、有料放送を無料で見られるように不正にデータを書き換えたカードを販売したとして、京都府警サイバー犯罪対策課などは19日、西東京市ひばりが丘北、職業不詳、小林一幸容疑者(43)を不正競争防止法違反容疑で逮捕した。不正B−CASカードについては、国が調査している。府警によると、摘発は全国初という。

翌日には別の人(乙)が、自宅のパソコンでB-CASカードを不正に書き換えて自宅のテレビで使用した行為により電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕されました。
また、さらに別の人(丙)が、不正に改変したプログラムをファイル共有ソフトで提供した行為により不正競争防止法違反容疑で逮捕されたことでした。

2012.6.20 不正B−CAS:逮捕の京大職員、ネットで改変方法公開- 毎日jp(毎日新聞)

 デジタル放送を視聴するための「B−CASカード」の不正なデータ改変事件で、京都府警サイバー犯罪対策課などは19日、有料放送を無料で見られるようにデータを書き換えたなどとして、新たに京都府宇治市五ケ庄平野、京都大防災研究所技術職員、多田光宏容疑者(30)を電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕した。多田容疑者はネット上で「平成の龍馬」と名乗り、自らのホームページで一時、改変方法を公開していた。

その後、乙が、知人宅でB-CASカードを不正に書き換えて知人宅のテレビで使用した行為により電磁的記録不正作出・同供用容疑で再逮捕されました。

2012.7.11 不正B−CASカード:京大職員、容疑で再逮捕−−府警 /京都- 毎日jp(毎日新聞)

 デジタル放送を視聴するための「B−CASカード」のデータ不正改変事件で、府警は10日、宇治市五ケ庄平野、京都大防災研究所技術職員、多田光宏容疑者(30)を電磁的記録不正作出・同供用容疑で再逮捕した。

そして、不正に改変されたB-CASカードをネットオークションで購入するなどした行為により、計10人が電磁的記録不正作出・同供用容疑で書類送検されました。

2012.7.26 B−CASカード不正改変:購入者も書類送検…京都府警- 毎日jp(毎日新聞)

 デジタル放送を視聴するための「B−CASカード」のデータ不正改変事件で、京都府警は26日、有料放送を無料で視聴できる不正カードをネットオークションで購入するなどしたとして、“ユーザー”9人を含む計10人を電磁的記録不正作出・同供用などの疑いで京都地検に書類送検した。いずれも容疑を認めているという。

まとめるとこういうことになるかと思います。

不正競争防止法 不正に改変したB-CASカードを販売
不正に改変したプログラムを提供
電磁的記録不正作出・同供用 B-CASカードを不正に改変して使用
不正に改変したB-CASカードを購入して使用

条文の確認

行為態様によって2つの刑事罰を使い分けていることがわかります。それぞれ確認してみます。

不正競争防止法 2条1項10号

以下の行為は不正競争防止法上の「不正競争」に該当します。

十  営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)

で、これに該当すると5年以下の懲役または/および500万円以下の罰金が課されます。

2  次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
四  不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で、第二条第一項第十号又は第十一号に掲げる不正競争を行った者

電磁的記録不正作出・同供用罪 刑法161条の2

電磁的記録不正作出・同供用罪は刑法に規定されています。

(電磁的記録不正作出及び供用)
第百六十一条の二  人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

要件の確認

不正競争防止法違反

長ったらしい条文なのですが、かっこ書きを外して見るとそこそこ分かりやすくなります。太字は私が付しました。

営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置若しくは当該機能を有するプログラムを記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為

B-CASカードは正当なプログラムがダウンロードされたカードを利用することで初めて有料放送が視聴可能となるものですから、技術的制限手段により制限されていて、その技術的制限手段を機能しなくすることで影像を視聴できる機能であるのは疑いの余地がありません。B-CASカードはまさにそのプログラムが記録された記録媒体であり、今回はこれをネットオークション等で販売もしくはファイル共有ソフトで提供等していますからこれも疑いの余地がありません。

素人目ではありますけれど、不正競争防止法違反の2件は、まぁ間違いなく黒だと思います。

※ちなみに「譲渡」と言われると無償であげることのように聞こえますが、法律上は「有償無償に関わらず占有を移転すること」ですから、「販売」も「譲渡」に含まれます。

電磁的記録不正作出・同供用罪

こちらは条文が短いだけに解釈が難しい面があります。

人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者

調べてみると日経BPのITProにこんな解説がありました。
「電磁記録不正作出・供用・同未遂罪」とは:ITpro

 これは,従来の文書偽造・変造・毀棄罪では,第一に文書のみを対象としデータを対象としていなかったこと,および第二に文書に該当するためにはその作成者を認識できることが要件とされていたところ,コンピュータでは複数の人間がコンピュータを作動させてデータを作成する場合があるのでデータの作成者を一義的に決定することができないこと,などによりデータを不正に作り出した者を処罰の対象とできなかったため,1987年6月22日刑法改正により本条が追加された。
 これにより,例えばキャッシュ・カードの磁気ストライプ部分に他人の預金口座の預金番号,暗証番号などを印磁する行為,あるいは虚偽の入金データを端末機から入力して預金元帳ファイルに虚偽の記録を作り出す行為なども処罰の対象となった。

私文書偽造の電子版と捉えると、有料放送を視聴する権限が実際にはないのに、あるかのように見えるデータを不正に作成しているわけで、何だか合っているようには見えます。

しかし、キャッシュカードの例なら銀行が事務処理を誤っているのが確かに理解できるのですが、不正なB-CASで誰がどんな事務処理を誤るのか、ちょっと繋がりが理解できませんでした。

「本来課金すべき有料放送視聴者に対して課金することができない」というあたりなんでしょうか?

とりあえずのまとめ

不正B-CASを作る方も使う方も、無料で有料放送が見れるということを知って一連の行為を行っているんでしょうから、どの行為も悪いことに違いはないように思います。少なくとも購入して使っただけの人であっても道徳的に足りない人と評価せざるを得ません。

だからと言って、警察権力が家庭内に踏み込んで縦横無尽に摘発することが無制限に許されるかというとそんなことはありません。公権力が市民生活に介入することは極力回避されるべきことだと思います。

今回書類送検された10名の方々が起訴されるのかは現時点ではわかりませんが、ここに至るまでに家宅捜索もされただろうし、取り調べ等で仕事を休まなければいけなかったかもしれません。仮に不起訴になったからと言って元通りにはなり得ません。

特に購入して使用しただけのユーザたちがどのように扱われるのか、注視すべき事案だと思います。

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