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2012年8月4日に開催された、明治大学知的財産法政策研究所セミナー『平成24年著作権法改正の評価と課題』に参加してきました。

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当日の議事録は近日中に主催者側でWebに掲載する予定とのことです(掲載されたら更新します)。また、Togetterにまとめている人もいました。私が曖昧な記憶と記録で適当に書くよりはこれらを参照していただいた方が10000倍くらい有用だと思います。
2012/8/4 明大セミナー 「平成24年著作権法改正の評価と課題」 – Togetter

ここでは私が今まで気付いていなかった点を中心にまとめておきたいと思います。簡単に言えば備忘録です。

日本版フェアユース

最初の問題提起で中山信弘教授が言っていました。今回の改正は「日本版フェアユースのなれの果て」だ、と。

と言うか私、違法ダウンロード刑罰化にばかり目が行っていて、他の改正にそんな経緯があったことすら気付いていませんでした。

念のため簡単に触れておくと「フェアユース」とは、主にアメリカで採用されている、公正な利用(fair use)に該当すれば形式的に他人の著作権を侵害する場合でも権利行使が制限される、という一般的な権利制限規定です。一般的、と言っているのは、具体的な行為態様が規定されずに個々の事案に対して公正な利用に該当するかどうかを判断する汎用的な規定である、という意味です。同じ行為を行っても諸事情を勘案して侵害になるかもしれないし、非侵害になるかもしれない、そういうものです。

今回の法改正にあたっては日本版フェアユースの必要性を認識した上で、その導入の検討を始めた経緯があるものの、実際にできあがった条文は具体的な行為態様を列挙する形になっており、少なくともアメリカ式のフェアユースとはほど遠いものでした。

セミナー内でも多く言及されていましたが、この立法経緯を考えると今回の改正は「日本版フェアユースの導入」という課題に対する一定の回答であるから、今後また米国式のフェアユースを日本で導入されることは当分考えられないだろう、ということです。

まさか今回の改正内容が、フェアユースを求めて行われたものとは思えませんでした。

パロディ規定の検討

今後見込まれる改正としてパロディ規定の話にも言及されました。

福井健策弁護士によると、同人界隈の人たちにコミケ等で聞き取りをしてみると大体75%くらいはパロディ規定は不要と考えているようだ、とのこと。

当ブログでも過去に書いているんですが、もちろん個々の創作活動によって判断はわかれますが、基本的にパロディは著作権法的にクロに近いグレーな面があります。でも実際には、著作権侵害は親告罪であり、権利行使する人が今のところいないから活動が続いている面もあります。
著作権法のパロディー規定は規制緩和

パロディ規定を設けることで少なくとも特定の創作行為は適法になるのであるから同人業界の人には喜ばしいことのはずだ、という認識でいました。

福井先生のお話によれば、同人業界では様々なジャンルの創作が行われており、パロディ規定を設けることですべてが掬われることはあり得なくて、むしろパロディ規定を設けることで明確にクロとなることを恐れているようだ、とのこと。それであれば現状のように、クロの可能性が高いとしてもお目こぼしをいただいている範囲で楽しくやりたい、とそう言うことのようです。

また、背景として、コミケ等で人気のサークルだと8桁単位の売り上げを上げるとか何とか。ある意味これに生活が掛かっている人もいる中で、そっとしておいて欲しいという考え方はわからなくもありません。

違法ダウンロード刑事罰化

ここでは一点だけ。「有料著作物」の解釈について、ちゃんと理解していなかったので触れておきます。

文化庁が掲載している改正法Q&Aでは、有償著作物は以下のように解説されています。

問7-2 「有償著作物等」とはどういうものなのか教えてください。
(答)
 有償著作物等とは,録音され,又は録画された著作物又は実演等であって,有償で公衆に提供され,又は提示されているものを指します。
 その具体例としては,CDとして販売されていたり,有料でインターネット配信されているような音楽作品や,DVDとして販売されていたり,有料でインターネット配信されているような映画作品が挙げられます。
 ドラマ等のテレビ番組については,DVDとして販売されていたり,オンデマンド放送のように有料でインターネット配信されていたりする作品の場合は,有償著作物等に当たりますが,単にテレビで放送されただけで,有償で提供・提示されていない番組は,有償著作物等には当たりません。(もっとも,違法にインターネット配信されているテレビ番組をダウンロードすることは,刑罰の対象ではないものの,法律違反となります。)
 (※)なお,例えば市販の漫画本を撮影した動画が刑事罰の対象に当たるのではないかとの問い合わせがありますが,漫画作品自体が録音・録画された状態で提供されているものではありませんので,有償著作物等には当たりません。

例えば、テレビで放送されたドラマを録画したものがあるとします。この段階では有償著作物には当たりません。これをアップロードしたりダウンロードすることは違法であるとしても、ダウンロードしただけで刑事罰を課せられることはありません。

その後、このドラマがDVD化されたとします。もしくは有料でインターネット配信が開始されたとします。これによりテレビ放送を録画した動画も有償著作物に該当するので、DVDが発売された時点から刑事罰の対象となります。同じ時に録画されてアップロードされたものであったとしても。

さらにその後、DVDの売り行きがよくなくて絶版になったとします。もしくは有料インターネット配信が停止されたとします。条文上「有償で公衆に提供され、又は提示されているもの」となっています。「されている」。大事なところなので二度言いました。すなわちダウンロードをした時点で販売されている事実がありそれを知っている必要がある、ということです。以前有償著作物だったけれど、有償提供されなくなったのであればそれは有償著作物ではありません。

再度別の出版社が版権を購入してDVDを復刊したら?もちろん有償著作物に逆戻りでしょう。

これらの事情をダウンロードする一般市民がその場で判断しなければいけません。もちろん怪しかったらしなければいい話なんでしょうけれど、見たいものは見たいですよね。しかも目の前にダウンロードのリンクが表示されている。それがやっていいことなのか、やってはいけないことなのか、即座に判断することができない、そういう規定になっているということです。刑法的には予測可能性というようです。この規定には予測可能性がない。

仮に捕まった場合に、おそらく焦点になるのは「その事実を知りながら行って」いたかどうか、になるのでしょう。知っていたことの立証はもちろん検察側が行うのでしょうが、どうやって立証するんでしょうね。非常に興味深いです。

立法過程の問題

パネルディスカッションに参加した先生方は改正法の評価は様々でした。比較的高く評価している方もいれば、いろいろと疑問を呈している方もいる。でもほぼ全員が今回の立法過程については否定的な見解を示されました。当たり前です。

一番は公開の場で一切の議論が行われずに一瞬で採決されてしまったこと。議員立法ですので、公式には文化庁すらも関与しない場で話が進められ、そして成立してしまいました。正確には自民党・公明党と内閣府法制局との間で非公式に法案の作成が行われたということのようです。

このような国民をコケにした政治を行う自民・公明もあり得ないし、消費増税法案とのバーターでこんなものを通す民主党も頭がおかしい。今までは大至急解散総選挙が必要だと考えていたのですが、民主党から政権をひっぺがして、次に託せるのは誰だと言うと、見渡す限りどこにもいないわけです。総選挙となったときに、政界再編による好ましい自浄作用が起きることを期待するしかない、そんな気分になる出来事でした。

間違いなく一つだけ言えるのは、このような乱暴な手続きで法案が成立し得る仕組みは制度上のバグとしか言いようがないということです。私にはどの辺りを手当てすることでこのような手段が防げるのかわかりませんが、制度的に改善されることを心から祈ります。

まとめ

やはり資料を漁るだけ、特にネットでざっくり調べるだけだと、自分が問題意識を感じているところばかりに目が行って、広い視野で問題を見つめることができなくなります。専門家の話をじっくり聞くことでいろいろと気付くことがあって、とても勉強になりました。

今回のセミナーはやはり相当に世間の注目を浴びた改正だけあって、600名の大ホールが9割方埋まるという大盛況でした。質疑応答でも、他の大学で知財法を担当している教授(?)であったり、高校で情報の授業を担当する教員であったり、放送局の社員(知財部の人かな?)であったり、幅広い層から参加者が集まっていたようです。

繰り返しになりますが、改正法の内容はともかくとして、今回の立法過程は本当にひどいものでした。現在の政府そして国会は正常な状態ではありません。大至急の解散総選挙を望みます。お願いします。本当に。

※追記(2013/1/25)
主催者から議事録が公表されました。
http://www.kisc.meiji.ac.jp/~ip/_src/20120804/20120804sympo.pdf


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