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2013年9月26日、東京地裁で日本人発明家がアップルに特許権侵害事件で勝訴したことが報じられました。

 携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」に使用されている技術で特許を侵害されたとして、日本のソフトウエア技術者の男性(56)側が米アップル側に100億円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。高野輝久裁判長は特許侵害を認め、アップル側に約3億3600万円の支払いを命じた。
(アップルに3億支払い命令 iPodで特許権侵害 東京の発明家勝訴 – MSN産経ニュースより)

問題の特許

発明者は齋藤憲彦さん、対象の特許は「特許第3852854号」だそうです。発明の名称は「接触操作型入力装置およびその電子部品」。詳しくは読んでませんが、こんな感じの図が付いてました。確かにクリックホイールっぽい。

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それで特許権の技術的範囲を規定する請求項は、こんな感じでした。一般的にここの記載は短い方が限定事項が少ないので権利範囲の広い”良い特許”と言えます。パッと見た感じ、構成要件も少なく限定事項も少なくて、とても広い権利範囲が取れているように見えます。

【請求項1】
リング状である軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置されたタッチ位置検知手段と、
接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段と
を有し、
前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って、前記プッシュスイッチ手段が配置され、かつ、
前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における押下により、前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる
ことを特徴とする接触操作型入力装置。

海外の報道

国内では「日本人があのアップルに技術で勝った!快挙だ!」みたいな短絡的な反応が多かったみたいです。

それでは、海外メディアはどう報じたのかなぁと気になったので、興味本位でざっくり眺めてみました。

Engadget

まず、ガジェット系の専門情報サイトEngadgetの記事。
Apple hit with $3 million damages in Japanese iPod click wheel dispute

事実だけを伝える短い記事ですが、全般的に大したニュースではないという扱いに見えます。締めの一文では「アップルはこのコストをカバーするためにほんのちょっとだけiPhoneを売らないといけない」などと、賠償額が少額であることを皮肉っています。

Fortunately for Apple, the final figure was substantially less than Saito’s demand and it’ll only have to sell a few more iPhones to cover the cost.

The Verge

こちらもガジェット系の専門情報サイトThe Vergeの記事。
Apple ordered to hand over $3.3 million to Japanese inventor in click wheel patent lawsuit

記事の出だしは”The iPod Classic may not be much longer for this world, “となっています。実際にはiPod Classicはまだ販売継続しています。何かを印象づけたい意図が感じられます。

記事では2007年に請求額1億円で訴えたのがその後100億円に引き上げたことを紹介しています。何かを印象づけたい意図が感じられます。

ちなみに、コメント欄では”invention”と”innovation”の違いで議論が盛り上がっていたりして、ネット文化の差が感じられます。

Apple Insider

アップルに特化した情報サイトApple Insiderの記事。
Japan court orders Apple to pay $3.3M for infringing on click wheel patent

あまり報じられていない情報が記載されています。この記事によると、最初に斎藤さんが東京税関にiPodの輸入差止を訴え、これにアップルが特許権非侵害の確認訴訟を提起、さらに斎藤さんが特許権侵害で反訴したとのことです。

この記事でも「裁判官は巨額の賞金を拒否し、iPodの一部の売り上げに基づいて330万ドルを認めた」などと言っていて、賠償額が少額であることを強調しています。賠償金(dameges)を賞金(award)と書くのも、何かの皮肉なんでしょうか。

Presiding Judge Teruhisa Takano denied the huge award, instead granting the $3.3 million in damages partly based on the iPod’s massive sales.

Mac Rumors

こちらもアップルに特化した情報サイトMac Rumorsの記事。
Apple Ordered to Pay $3.3 Million in Japanese Lawsuit Over iPod Click Wheel Patent

短い記事ですが、「和解に失敗した後、突然損害額を100億円に釣り上げた。しかし法廷はアップルの侵害ははるかに少ない額で保証されると判決を下した」などと、アップル寄りの内容になっています。

…as settlement negotiations failed to result in any agreement, he eventually increased his damages request to ¥10 billion ($101 million). The court ruled, however, that Apple’s infringement warranted the much smaller judgment.

所感

新聞社などの総合情報サイトではそもそも報じられていなくて、テック系やアップル特化の情報サイトのみが短く取り上げているのみでした。内容も賠償額に関して焦点を当てている記事がほとんどです。

日本の報道と温度感に差がある原因はいくつかあるんでしょうけれど、私は以下の二点が大きのではないかと考えています。

一つは、斎藤さんの特許が日本のみに出願されていて、米国では対応する特許が存在しないことです。この事件が海外に波及することはないわけで、さらに賠償額が(米国基準で考えると)少額ですから、アップルが受ける損害は微々たるものという判断があったのでしょう。

もう一つは、米国は現在パテントトロール問題が深刻化していて、大企業がその対応に莫大なコストを払わざるを得なくなっていることが社会問題になっていることです。今年6月には米国のオバマ大統領がパテントトロールを駆逐する特許制度改革に取り組むことを表明し、話題にもなりました。

 米政府の公式ブログによると、過去2年間にパテントトロールによる訴訟の件数は約3倍になり、米国におけるすべての特許訴訟の62%を占めるという。パテントトロールの犠牲者が2011年に支払った金額は290億ドルで、2005年より400%増えたとしている。
(米連邦政府、“パテントトロール”駆逐に向けた取り組みを発表 – ITmedia ニュースより)

実際に事業を行なっていないものが古い特許権を持ち出して大企業に巨額の損害賠償や和解金を迫ることは、あまり快く思わない空気が米国社会全体的にあるんじゃないかと思います。

ところで、私が最初にニュースに触れたときの第一印象は、iPodの販売台数から考えても賠償額があまりに少ないんじゃないかということです。で、iPodってどんだけ売れたんだろうかと思って調べたんですが、まったく情報がありませんでした。

判決文が公開されれば、おそらく賠償額の算定がどのように行われたか書かれているはずで、そのためには国内の累計販売台数が欠かせないはずです。そういう面でも判決文の公開が待たれるところです。


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