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2013年9月26日、東京の個人発明家がアップルに特許権侵害事件で勝訴したことが大きく報じられました。このブログでも主に海外メディアがどう報じているかを中心に感想など書きました。

本件の判決文が公開されたと聞いて、見に行ってみました。

平成19年(ワ)第2525号,第6312号 債務不存在確認請求本訴,損害賠償請求反訴事件 判決全文 別紙1

事案の概要はこうです。

1 本訴は,原告が,入力装置等に関する特許権を有する被告に対し,原告の小型携帯装置の輸入販売が被告の特許権を侵害しないと主張して,被告が上記特許権の侵害を理由とする損害賠償請求権を有しないことの確認を求め,反訴は,被告が,原告に対し,原告の上記輸入販売が被告の特許権を侵害すると主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害金627億4800万円のうち100億円及びこれに対する不法行為の後の日である反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

アップルが先に特許権侵害を理由とする損害賠償請求権の不存在確認訴訟を提起し、個人発明家が反訴として特許権侵害による損害賠償請求訴訟を提起したということのようです。

一部では、個人発明家側がアップルに特許権侵害の警告をしたけれど交渉決裂したため税関での輸入差止を行ったことが端緒といったことが報じられていました(参考)。それと整合する状況のように見えます。

(1) 被告の特許権
 被告は,発明の名称を「接触操作型入力装置およびその電子部品」とする特許権(特許番号第3852854号。以下「本件特許権」といい,これの特許を「本件特許」という。)を有している。本件特許は,平成10年1月6日にされた特許出願(平成10年特許願第012010号。以下「原出願」という。)から,平成17年5月2日に分割出願され,平成18年9月15日に特許権の設定の登録がされたものである。
(2) 被告の発明
 ア 本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の記載は,本判決添付の特許公報の該当項に記載のとおりであるが,被告は,平成21年3月5日,請求項1及び2について,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として,訂正審判請求(訂正2009-390032号事件)をし(以下,この訂正を「本件訂正」という。),特許庁は,同月31日,本件訂正を認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をした。

対象の特許権は報道された個人発明家の氏名からすでに特定されていた通りで、特許第3852854号でした。平成10年1月6日にした原出願を平成17年5月2日に分割して本件特許権が成立し、その後、平成21年3月31日に訂正審決がされています。

平成17年5月2日に分割している事実について、この時期にはすでにiPodは発売されていたわけで、iPodの実物を見ながらこれをカバーするようにクレームを立てて分割出願をしてるんじゃないかという指摘が一部でされていました。実物を見ながらそれに適合するようにクレーム立てたのなら技術的範囲に属するのは当然と言うわけです。

iPod のモデルを区別する方法にiPod製品の各世代がいつ発売されたかがまとまっています。イ号製品の第5世代iPodは2005年10月、第2世代iPod nanoは2006年2月発売で分割出願日以降になっています。しかし、「クリックホイール」が搭載されたiPodはもっと前から販売されていて、2004年1月のiPod miniが最初のようです。iPod miniと第5世代iPodとでクリックホイールの仕様に変更があったのかどうか、その辺の事情がよくわかりませんが、時期的には非常に微妙な感があります。

原出願の明細書は見てないですが分割の要件を満たさないと特許期間の始期が分割出願の出願日に繰り下がってしまうから、その辺を意識して分割出願日以降に発売された製品のみを訴訟対象としているのかもしれません。わからないけど。

さて、損害額の算出方法からiPodの国内売上がどんなものか推察できるかも、と思って楽しみにしていたんですが、すべて黒塗りされてさっぱりわかりませんでした。当然と言えば当然ですが、残念であります。

3 争点3(原告が受けた損害の額)について
 (1) 証拠(甲95,98,127,128,計算鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,平成18年10月1日から平成25年3月30日までの間の原告各製品の日本国内における売上高(消費税抜き)は,●(省略)●円であり,消費税込みの売上高は,●(省略)●円であると認められる。

損害額の推定で面白かったのはこの辺り。判決では、この発明について従前からiPodではタッチホイールが採用されており、この発明の寄与の程度は低いと断じています。

 操作性の向上の点は,タッチホイールを採用していた従前のモデルの後に,クリックホイールを採用した原告各製品等が販売されたことや原告自身がクリックホイールによる操作性の向上を宣伝していること(乙30ないし38)からすると,一定の寄与があるとは考えられるが,クリックホイールの機能の割当てや本件各発明とは無関係のセンターボタ
ンの存在の果たす役割も大きいと考えられるから,この点に関する本件各発明の寄与の程度が大きいとは認め難い。
そうすると,本件各発明の技術が原告各製品に対して寄与する程度は大きくないというべきである。

特許権侵害の損害額は、侵害製品の売上額×寄与率で決まるので、寄与率が相当低く決定されたものと考えられます。判決文によると、個人発明家は侵害製品の売上額を5976億円と主張していたようですから、少なく見積もって仮に3000億円としても認められた損害額が3億円なので寄与率は0.1%ってことになります。

いくら個人としては巨額の損害賠償金とは言っても、これでは負けたも同然と評価されても仕方ないかもしれません。

やっぱり判決文を見ていると、報道当初の「快挙!日本人がアップルに技術で勝った!」みたいな短絡的な反応はいかにも脳天気な反応に思えます。

両者とも控訴しているそうですから、今後の展開からも目が離せません。


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