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神戸連続児童殺傷事件を追ったドキュメンタリーです。いわゆる「酒鬼薔薇聖斗事件」と言った方が通りがよいかも知れません。

事件の概要は以下の通りです。本書の巻末から抜粋しました。

1997年
2月10日 中落合で小学六年の二女児殴打事件
3月16日 竜が台で連続通り魔事件。小学四年女児・山下彩花(あやか)さん(10)が頭部を殴られ一週間後に死亡。小学三年女児が腹部を刺され、二週間のけが
5月24日 友が丘で小学六年児童・土師淳君(11)が行方不明
5月27日 切断された淳君の遺体が相次いで見つかる
6月 4日 神戸新聞社に犯行声明文が届く
6月28日 淳君殺人事件で、捜査本部が十四歳の少年を殺人容疑などで逮捕
6月29日 インターネットに少年の実名が流れる
7月10日 捜査本部が少年を連続通り魔事件の殺人容疑などで再逮捕
7月25日 神戸地検が小六男児殺人事件、連続通り魔事件、女児殴打事件で少年を神戸家裁に一括送致
8月 1日 神戸家裁が審判開始決定
10月17日 神戸家裁で第五回最終審判。少年に「医療少年院送致」の処分決定を言い渡す。同時に決定要旨を公表する

当時、私は怠惰な生活を送る大学生だったので、毎日のように朝のワイドショーでこの事件を報じていたのを夢中になって観ていたことを覚えています。関東で生活していた私の周囲はあまり緊迫感とかはなくて、映画や小説のような猟奇的な殺人事件の発生に若干心浮かれる面すらあった記憶があります。

あの頃はとにかく凶悪な事件が多くて、二年前には地下鉄サリン事件や八王子スーパー強盗殺人事件、前年には足利事件、同年には東電OL殺人事件、翌年には和歌山毒物カレー事件、その翌年は桶川ストーカー殺人事件や下関通り魔殺人事件なんてものが発生していて若干そういう刺激に慣れていた感もあります。そんな中でもこの酒鬼薔薇事件の衝撃は凄まじいものがありました。

本書の発行は2001年。事件の四年後です。著者が事件現場や加害者、被害者の暮らしていた周辺地域を巡って事件の関係者に取材した内容をまとめたものです。

凶悪事件のドキュメンタリーではありながら、あまり犯罪行為についての描写は多くなく、かなり加害者側に寄り添った構成になっているように思いました。事件では二人の児童が殺害されていますが、女児殴打事件の方についてはその事実のみが記され、事件当時の加害者の行動については一切記載されていません。

一方で、少年Aの幼少時から事件に至るまでの養育環境などは深く取材がされています。特に祖母と母親との関係性については詳しいです。

本書で暗に示されているのは、多少人格に問題のある母親による苛烈な教育と、母親から逃れるための唯一の逃げ場だった祖母の死が、少年Aに対して大きな影響を及ぼし、結果的にこの重大犯罪を引き起こしたのだ、という著者の主張です。

本書は特に後半において犯人である少年Aに対して同情的な印象を受けます。一方で、被害者側についてはほとんど無関心に読めていささかバランスを失した印象を持ちました。本書は事件の全体像を追ったものというよりも、少年Aがなぜ犯行に及んだのか、その背景を追ったものと考えた方がよいです。

犯人である少年Aは1983年生まれなので、2013年には30歳になっています。すでに社会復帰も果たしているようです。事件から15年以上が経っても今だにネット上には度々記事が上がってたりするので世間の関心の深さが窺えます。

参考1:酒鬼薔薇聖斗事件から今日で16年  30歳となった酒鬼薔薇は社会復帰し、日常に溶け込んでいる – 事件簿
参考2:酒鬼薔薇聖斗と知り合いだけど質問ある?:まとめてるけど質問ある?

犯した罪に対して受けた罰が軽すぎるという主張も理解はできます。しかし、一応は正規の手続きを経て社会復帰しているわけだから、これ以上の社会的な制裁を受けるのは適切ではないように感じます。こうしてリンク貼っておいてなんですが。

彼の場合は事件発生直後に本名と顔写真が写真週刊誌に掲載され、インターネットを介して一気に拡散しました。近年はインターネットに一度流通した情報が容易に削除することができないことから、忘れられる権利というものが意識されるようになっています。そういう面でも日本の犯罪史上極めて重要な事件なのだろうと思います。

一番残念なのは、本書を読んで改めて当時を思い出してみても、何一つ教訓めいたものを見出せないことです。あまりにも常軌を逸した事件なので、このような事件を繰り返さないために、これから自分にできることは何だろうと頭を捻っても何も思い浮かびません。

子供なんて持たなければいい、という元も子もない結論を除けばね。


重大事件の書評など

『東電OL殺人事件』佐野眞一(著)
『東電OL症候群(シンドローム)』佐野眞一(著)
『女子高生コンクリート詰め殺人事件』佐瀬稔(著)
『狭山事件の真実』鎌田慧(著)
『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』豊田正義(著)
『足利事件(冤罪を証明した一冊のこの本)』小林篤(著)
『名張毒ブドウ酒殺人事件―六人目の犠牲者』江川紹子(著)
『桶川ストーカー殺人事件―遺言』清水潔(著)
『津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇』筑波昭(著)
『黒い看護婦―福岡四人組保険金連続殺人』森功(著)

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