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故中島らもさんの自伝的小説『今夜、すべてのバーで』を読みました。第13回(1992年)吉川英治文学新人賞受賞作だそうです。

中島らもさんについては今まで読んだことがなくてあまり詳しいことは知りませんでした。すでに亡くなっていることも最近知りました。

興味を持ったのは、phaさんが自著『ニートの歩き方』の中で言及していたのを読んだからでした。

参考:『ニートの歩き方』pha(著)

物語は、主人公小島容(いるる)がアルコール中毒で病院に担ぎ込まれるところから始まり、回復して退院するところで終わります。病院の主治医や他の患者との交流を交えながら、病状の経過が描かれていきます。

アルコール中毒に罹ると何が起きるのか、治療によってどのような経過を辿るのか、医者との治療法に関する会話などの描写は、アルコール中毒に関するドキュメンタリーのようです。リアリティがあるのは当然で、中島らもさんの実体験がベースになっているからです。

本書が小説として優れているのは、主人公が病院を脱走して禁酒を断った晩に、同室の若い患者が亡くなるクライマックスからエンディングへの流れだろうと思います。展開としては、陳腐と言えば陳腐とも言えるのですが、冒頭では厭世的でいつ死んでもよいとも考えていた主人公が、患者の死とそれに関する医者との対話を通じて生きていくことを決意する心の動きの描写が秀逸だったと思います。

本書では、主人公は人生に前向きに変わっていき、希望に満ちた結末を迎えるわけですが、当人の中島らもさんはその後も破滅的な人生を送り、52歳で泥酔の末の事故死を遂げています。もしかしたら本書は中島らもさんの願望が描かれたものだったのかもしれないと思ったりもしました。

もう一つ、本書はよく言われることですが、ところどころに名言が散りばめられています。

例えば、次の有名な一節も本書で表れるものです。

「教養」のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。
「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」のことでもある。

最初は有名な作家だし、一冊くらいは読んでおいてもいいだろう、くらいで手にしたものですが、俄然興味が湧いてきました。他の著作も読んでみようと思います。

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