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父親が死んで困ったことの一つは自動車の扱いでした。

父は自動車に非常なこだわりがあって、老夫婦二人でしか乗らないのに排気量3500ccの日産ムラーノを所有していました。現行モデルではメーカー希望小売価格450万円ほどの代物です。オプション等もバリバリ付けていたので購入価格は500万円を下らないのではないかと想像しています。

実家に残された母は運転免許を持っていません。しかし実家付近は自動車がないと大きい買い物などが不便な田舎町です。今は健康状態に問題ないですが、歳を追って病院などへ誰かが送り迎えする必要が生じるかもしれません。

ところが私は実家を出て都内に引っ越してから15年あまりほとんど運転したことがありません。金ぴかのペーパードライバーであります。車庫に入れたら人一人通るのに苦労する大型車をいきなり自在に操る自信は微塵もありません。

排気量3500ccともなると自動車税も半端ではなく、年間5万8000円になるそうです。うちの実家あたりではファミリー向けマンションの一か月分の家賃に相当する額です。

そうした事情を勘案した結果、自動車税の金額が決定する4月1日までに、私でも乗りこなせるような小さい車に買い替えることが最適解という結論に至りました。

ムラーノの下取りが原資になるので、購入したディーラーに行きました。現在の日産のラインナップではマーチかノートが手頃であろうということでした。それではと、まずはノートで見積もりをもらいました。

X-DIG-Sというグレードをお勧めされ、ナビとバックビューモニター、ETCを付けた結果、系列店で設定している特別値引きが適用されて、本体価格と諸経費で180万円でした。ムラーノの下取りが100万円です。80万円足が出る見積もりとなりました。

はっきり言って想定外の価格でした。下取り金額と購入価格がトントンくらいで、キャッシュレスで購入くらいのイメージだったのです。下取りが期待外れでした。葬儀や四十九日の法要などに関する費用も見えない状況でしたので、簡単に出せる金額ではありません。

「これは仕方ないね、中古も視野にいれて考え直します」ということでその日はディーラーを失礼しました。

ノートに買い替えても自動車税の差額は2万円強くらいの話だし、昔と違って通販を活用すれば生活できないわけでもありません。消費税が上がった後であれば、車が売れずに大きい値引きを出すディーラーもあるかもしれない。とりあえず車のことは置いておいて他の処理に注力しよう。私たち家族は一旦はそういう結論に至りました。

そう思っていた矢先、ディーラーの担当者から電話が掛かってきました。「下取りをもう少し何とかできないか上と交渉しているから、今週末また来てくれないか」というわけです。正直まったく気乗りはしなかったのですが、父がお世話になっていたことも知っているので無下にはできず、翌週の日曜日、ディーラーへ向かいました。

ディーラーの担当者の提案は、ノートのグレードを下げて見積もらせてくれ、ということでした。希望小売価格で20万円ほど安い、Xというグレードでした。エンジンの燃費がちょっとだけ悪く、エアコンがちゃちいものになるくらいの違いだと言います。見るだけならタダなので見積もりを作ってもらうことにしました。

それで出てきた新しい見積もりは総額147万円。下取り価格は100万円で変わらず。持ち出しが47万円ということでした。ぶっちゃけ、あんまり頑張った気配がありません。希望小売価格の差額が下がっただけじゃねぇか。

「あまり変わり映えしませんね」と感想だけ言って失礼しようかとしたときでした。

「実際、いくらくらいで考えてます?」

なるほど、ここをスタート地点にして価格交渉が始まるのか。現代日本で消費者相手の商売でそんな取引形態があるということに軽い衝撃を覚えました。東南アジアのマーケットじゃないんだから。

「30くらいで考えてたんですよ…」
「わかりました。30万ジャストで調整します。」
「…え?いいの?」

即答でした。
もうちょっと考える振りくらいすればいいのに。

私は自動車を買ったことがないのでディーラーにどれくらいの裁量があるのかよくわかりません。しかし、元々キャンペーンの特別値引きが入っているのに、その値引き額以上をさらに引くというのは、もう価格なんてあってないようなものです。

情報システムの受託開発みたいな仕事だと長期間の継続的な取引が見込めるので、イニシャルで赤字覚悟の特価を出して取りに行くようなことは一般的に行われています。しかし、自動車っていわゆる大衆消費財でディーラーのスイッチングコストなんて大したことなさそうです。そんな無茶なことをする理由が思いつきません。販売希望価格ではものすごい利益率になるとしか思えないんですが、どうなんでしょうか。

ただ一つだけわかったのは、自動車を買うときはゴネるだけゴネた方が得っぽい、ということです。少なくとも最初の見積もりで予算内であったとしてもそれで買うのはアホのやることだ、と思いました。

不思議な世界もあるものです。

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