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本田技研工業の二輪車『スーパーカブ』の商品形態がそのまま立体商標登録されたそうです。これはすごい。

Hondaの「スーパーカブ」の形状が特許庁から立体商標として登録されることが決定しました。二輪自動車※1としてはもとより自動車業界としても、その乗り物自体の形状が立体商標登録されるのは日本で初めてであり、工業製品全般としても極めて珍しい事例となります。

出典:Honda | 「スーパーカブ」の形状が日本で立体商標登録認可 ~乗り物として初の快挙達成~

立体商標に登録されると何がすごいのか

何がすごいかと言うと、商品の形態がそのまま立体商標として登録されることは非常にハードルが高いからです。

立体商標というのは、立体的な形状を商標として登録する制度です。商標法第2条で商標には立体的形状が含まれることが規定されています。

(定義等)
第二条  この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

出典:商標法第二条第一項

ところが商品の形状そのままでは、いわゆる記述的商標に該当するため、商標登録を受けることができません。例えば、「おいしい牛乳」とか「はちみつレモン」とかがこれに該当します。

(商標登録の要件)
第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

出典:商標法第三条第一項第三号

記述的商標が登録されない理由は、このような商標は多くの人が利用したいと欲するものなので一私人に独占させるのは妥当でない、とか、多くの場合に一般に使用されているものだから識別力がない、とかと説明されています。

しかしながら、いわゆる記述的商標として登録できないとされても、使用の結果全国的に周知となっている場合には登録を受けることができます。例えば、最近だと井村屋の「あずきバー」が登録されてニュースになりました。

参考:井村屋あずきバーに学ぶ商標法の基本

2  前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

出典:商標法第三条第二項

立体商標は大きく分けると、立体的なロゴを出願する場合と、商品自体の形態を出願する場合とに分けられます。

前者はカーネルサンダースとか、キューピー人形とか、不二家のペコちゃんとか、そんな感じのやつです。こちらは比較的登録を受けやすいです。

後者は商品の形状そのままだと登録を受けることはかなり難しいです。需要者(消費者とか中間の取引者)が形だけ見て「あ、これはどこのメーカーの何とかって商品だな」と理解できるくらいの周知性が必要だからです。

後者の例で登録されたものでは、コカコーラの瓶とか、マグライトとかが有名です。サントリーの角瓶やヤクルトの容器は周知性が低いとして登録されませんでした(ヤクルトの容器は後に再度出願して登録されています)。結構微妙な線で登録されるか否かが分かれるのが理解できるでしょう。

スーパーカブはなぜ登録されたのか

スーパーカブの立体商標の審査経過をIPDLで確認してみると、以下のとおりでした。予想通り、3条1項各号で拒絶され、拒絶査定不服審判の末に登録となっていました。

  1. 平成23年2月18日、商標登録出願(商願2011-10905)
  2. 平成23年3月17日、出願公開
  3. 平成23年7月29日、拒絶理由通知(第3条1項各号)
  4. 平成23年9月7日、意見書提出
  5. 平成25年2月15日、拒絶査定
  6. 平成25年5月16日、拒絶査定不服審判請求(不服2013-9036)
  7. 平成26年3月27日、原査定取消、登録審決

どんな理由で登録されたのかは審決書にすべて書いてあります。3条2項の判断だけ見ればよいので一部のみ引用します。

2 商標法第3条第2項該当性について
(2)本願商標の使用による識別力
 以下、請求人の主張及び提出に係る各甲号証から、前記(1)の観点に照らして、本願商標が商標法第3条第2項に該当するか否か検討する。

ア 本願商標の形状
 本願商標に係る立体的形状は、その構成中のレッグシールドを有するフロントカバー及びステップスルー、また、これらと組み合わされた大径の車輪、リヤフォーク、キャリア、サスペンションの配置等における特徴により、全体として、他の二輪自動車と異なる一定の特異性を有しているということができる。

イ 本願商標の使用の実情
(ア)使用開始時期及び使用期間
 本願商標は、請求人が製造販売する二輪自動車であるスーパーカブ(以下、そのシリーズ商品も含めて「スーパーカブ」という。)の基本デザインであり、スーパーカブは、まったく新しいカテゴリーの二輪車を具体化したもの(甲第2号証の3)として、1958年8月に、初代モデルが発売されて以来、モデルチェンジを繰り返し、派生モデルも生じているものの、その基本デザインは、50年以上も変更されていない(甲第1号証、甲第2号証の4、甲第5号証、甲第6号証、甲第13号証など。)。

(イ)生産台数
 スーパーカブの生産台数の累計は、1958年当時の我が国の50ccの二輪自動車の存在台数が30万台弱であった中(甲第11号証。なお、スーパーカブの当初モデルの排気量は50cc。)、登場から約3年後の1961年6月までに100万台を超え、1966年に500万台、1976年に1,000万台、1991年に2,000万台、2000年に3,000万台、2003年に4,000万台、2005年に5,000万台、2008年に6,000万台を超えて、世界最多量産の二輪自動車となっており、その後もその記録を更新し、2012年には、生産累計台数が7,600万台以上となっている(甲第3号証ないし甲第6号証)。

(ウ)使用地域
 スーパーカブは、日本全国にある請求人の二輪自動車販売店で販売されており、スーパーカブの販売店は、請求人のウェブサイトから検索することができるところ(甲第19号証)、当審における職権調査によれば、例えば、東京都に所在する販売店の検索結果は162店舗である。
 また、スーパーカブは、郵便、新聞、牛乳等の配達、蕎麦等の出前、銀行等の営業、警察官、通勤や通学などに用いられるため(甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第16号証)、幅広い層の需要者に使用されている状況からすれば、実際にスーパーカブを使用している者以外の者においても、本願商標を目にすることは多いものといえる。

(エ)広告宣伝等
 請求人は、1958年から現在に至るまで、スーパーカブの商品カタログを毎年のように作成、発行するとともに、スーパーカブの広告を新聞、雑誌などの媒体に掲載してきており、これらのカタログや広告には、本願商標が掲載されている(甲第5号証、甲第6号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第14号証)。
 また、スーパーカブを単独で特集した書籍や、特集記事を掲載した雑誌なども多数発行されており、それらによれば、スーパーカブは、日本全国どこでも見かけることができ(甲第5号証)、生活の中に溶け込むように使用され、社会の風景の一部になるほど、身近な存在となっており(甲第5号証、甲第7号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第16号証)、いつも視界のなかを走るオートバイであった(甲第9号証)などの記載があり、このことから、本願商標は、我が国において、広く一般に知られているといえる。

ということで、この商品デザインの使用期間、販売台数、使用地域、宣伝広告の量などを総合的に考慮して、スーパーカブのデザインは全国的に広く知られていると判断しています。

さらに、一部で指摘のあったヤマハ『メイト』やスズキ『バーディー』などの類似商品についてもちゃんと考慮されていました。

(オ)本願形状に類似した他の商品の存否
 インターネット情報等によれば、本願商標の特徴を有する二輪自動車として、ヤマハ発動機株式会社のヤマハメイトシリーズ(以下「ヤマハメイト」という。)又はスズキ株式会社のスズキバーディーシリーズ(以下「スズキバーディー」という。)に関する情報が見受けられる。
 しかしながら、ヤマハメイト及びスズキバーディーは、いずれもスーパーカブの後発商品であり(甲第8号証)、それらの生産台数がスーパーカブの生産実績と同等といえるほどの情報も見当たらず、また、需要者はヤマハメイト又はスズキバーディーも含めて、本願商標の特徴を有する二輪自動車をスーパーカブと認識するといわれることもあり(甲第23号証)、さらに、ヤマハメイトは2008年9月に生産終了し(甲第22号証)、スズキバーディーも既にその一部が生産終了となっている(甲第21号証)。
 そして、これらのほかに、本願商標の特徴を有する二輪自動車は見当たらない。
 他方、本願商標は、「2008年度 グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」及び「2008年度 グッドデザイン・ライフスケープデザイン賞」を受賞し(甲第2号証)、「2009日本自動車殿堂 歴史車」にも選定登録されている(甲第4号証)。

どっちも後追い商品だし、むしろスーパーカブと誤認されてたっぽいし、販売終了しているし、ということで、スーパーカブの登録の妨げになることはないという判断をしたようです。

3 まとめ
 以上のとおり、本願商標は、その指定商品について、商標法第3条第2項の要件を具備するものであるから、同条第1項第3号に該当するとして、本願を拒絶する限りでない。
 その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。

ということで、無事にスーパーカブの立体商標が登録と相成りました。

立体商標登録によるメリット

一般的には、商品の形態を保護するためには、意匠法もしくは不正競争防止法が利用されます。構造自体に何らかの技術的な効果があれば特許法や実用新案法を利用する余地はありますが、商品のデザイン全体を保護するのには適しません。

意匠法では保護期間が登録から20年で有期ですし、新規なデザインである必要がありますから、50年前に発売されたスーパーカブのデザインを現在保護する手段はありません。

不正競争防止法では2条1項3号でデッドコピーに対する権利行使は可能ですが、これも販売開始から3年間しか適用はありません。スーパーカブのように周知であれば2条1項1号の適用の余地がないわけでもありませんが、非常に難しいところだと思います。

このように、一般的には販売から数十年経った商品の形態をそのまま保護することは非常に困難です。

で、商品の形態を立体商標として登録できると、他者による類似の形態の商品に対して権利行使が可能となります。また、商標権は10年ごとの更新により半永久的に権利を保持することができます。つまり、本田技研工業はスーパーカブと類似の形態の二輪車について半永久的に独占的にビジネスを行うことができる権利を手にしたということです。

商標権は国ごとに成立するものですから、日本のみで権利を持っても実効性がないという意見も見られます。確かに模倣品の製造はほとんどが中国で行われ世界中に流通していますから、日本への輸入でもないと今回の権利を利用する場面はないかもしれません。しかし、中国は商標の国際登録に関するマドリッドプロトコルにも加盟していますし、日本の権利を元にすれば中国でも同様の権利を取得するハードルはぐんと下がるはずです。

スーパーカブの立体商標登録は結構インパクトの大きい話です。特に、裁判所に行かずに特許庁の審判で登録が認められたというのは画期的なことではないでしょうか。ロングセラーの商品デザインを保護するために立体商標制度を利用するという実務が普及し出すと面白いことになるんじゃないかな、という予感がします。

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