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近藤誠氏の『近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか?』を読みました。

偽医学の話題が出てくると必ず名前を見るので近寄らないようにしていたのですが、読みもしないで嫌うのも公平ではないので、書店で平積みにされていた簡単そうな一冊を購入してみました。

なかなか面白い本でした。

本書の主張

本書で、がんは放置するのがいいとする理屈はこういうことです。

  1. がんには転移する「本物のがん」と転移しない「がんもどき」がある
  2. 「がんもどき」は転移しないから放置しても危険はない
  3. 「本物のがん」は発見した時点で全身に転移しているから完治しない
  4. 手術や抗がん剤は悪影響が大きいから放置した方がQOLが上がる

私は医学的な知識がほとんどないせいか、まったく理解できませんでした。がんでも転移するものと転移しないものがあるのは経験的に知っているし、抗がん剤の副作用とか手術が肉体的に高い負荷を受けるのもわかります。

しかし、「本物のがんは発見した時点で全身に転移している」という理屈がまったくわかりません。本書でも説明はされているのですが、要約すると「後から転移しているのがわかったとしたら、そのがんは最初からあったから」らしいです。まったく回答になっていません。

そもそも転移するのが「本物のがん」で転移しないのが「がんもどき」と定義されていますので、発見後に転移しなければそれは「がんもどき」であって「本物のがん」ではないわけです。逆に後から転移があった場合は「本物のがん」だからと理由づけできるし、最初に見落としただけで最初からあったのだという話になります。定義からして「本物のがんが転移しない」という事象は起こり得ません。世間ではこれは詭弁と呼んでいます。

一番の疑問は、「がんもどき」なのか「本物のがん」なのかをどう判別するか、です。本書の答えは「放置するのが最善なのだから区別する必要はない」でした。なんだそれ。

率直に言ってまったく説得力がなくて得るものは何もありません。むしろこういう言説でも本人が希望すればちゃんと出版される表現の自由って素晴らしいなとある種感動を禁じ得ませんでした。

なぜこんな本が売れるのか

でもAmazonのレビューなんか見ていると異常に評価が高くてビックリします。

例えば、こんな感じ。

近藤先生の著作はすべて拝見しております。

濃厚・過度の医療の現実にあって、とりわけガン患者への有無を言わせない今の標準医療のあり方にはとても問題意識をもっています。きちんと知った上で、なんらかの外科的あるいは内科的(抗がん剤投与)を受けるのならいいとしても、そうでない場合には医者の言うなりに治療が進められ、あげくの果てには、命が縮められてしまう。まさに、命が医者によって縮められてしまうという現実を知っておいたほうがいい。

現代医療は病をすべて直してくれる、ガンにおいても、治療すればすくなくとも延命を期待できる・・・それはまさに早計です。

必読書です。

出典:カスタマーレビュー: 近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? (光文社新書)

なんでこんなに絶賛されるんだろう、と読了後しばらく考えていたのですが、あることに気付きました。これ、詐欺師の手口と同じだ。

有名人のエピソードを交える

本書ではがんで亡くなった芸能人(一部存命の方もいますが)のエピソードがふんだんに取り上げられています。

中村勘三郎さん、やしきたかじんさん、筑紫哲也さん、逸見政孝さん、赤塚富士夫さん、忌野清志郎さん、田中好子さん、梨本勝さん、渡辺淳一さん、米朝邦雄さん、スティーブ・ジョブスさん、アンジェリーナ・ジョリーさん……。

誰もが知っているがんにかかった有名人を挙げて、あの人は「がんもどき」だった、あの人は「本物のがん」だった、その証拠にあの人はがん発表後すぐに亡くなった、あの人はがん発表後何年生きた、などなど自分の説に合うように都合よく当てはめて説明しています。

検証不可能な根拠を示す

著者は自分の説にはすべて根拠があると言います。世界中の論文に目を通して学術的に裏付けのある話だと。

しかし、本書で論じている個別の議論では根拠らしきものは一つも挙げられていません。すべて「自分の経験上そのようなことはない」「自分の経験上例外はない」という話です。

そもそも本書は200頁ほどの新書ですが、一つとして参考文献は挙げられていません。それがすべてを物語っていると思います。

巨悪をチラつかせる

本書で再三にわたって出てくるのは「がん治療ワールドの医者たち」という言葉です。この人たちはがんの治療をして食っているのでがん患者が減ると困るから不要な治療を押し付けてくるのだ、厚生労働省もこの人たちと繋がっているから無駄な健診を受けさせるのだ。そんな調子です。

この手の陰謀論を好むのは基本的に知識レベルの低い人たちです。彼ら彼女らは世の中の人たちが自分と同じくらい頭が悪いと思っていますから、真実を知って少しでも優位に立ちたいと思っています。そうした人たちには、この手の一見荒唐無稽な話の方が興味を引きます。明らかに普通の話では周りの人よりも優位に立てないからです。そうした知識レベルの低い人たちを先導するために、巨悪をチラつかせるのはとても有効です。

まとめ

噂にたがわぬトンデモで批判されるには批判されるなりの理由があるのだということがはっきり見えました。別の意味でとても面白かったです。

実は本書を読む前には、これだけの人が絶賛するのだからそれなりに説得力があるんだろうと予想していて、洗脳されちゃったらどうしようかしら、なんて心配もしていたんですが、完全に杞憂に終わりました。これはないわ。

私の個人的な経験ですが、祖母も母も乳がんになり、手術をして完治して2人ともその後20年以上健康に生活しています。私は著書で無責任に適当なことを言う無免許医(著者はすでに医師免許を返上しています)の言うことよりも、実際に診察をして経験を重ねてきた目の前の医者を信用します。

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