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日清が自社のストレート麺製法特許を侵害されたとしてサンヨー食品を訴えていた訴訟が和解で終了したとのことです。

 即席麺の製法の特許を侵害されたとして、日清食品ホールディングスがサンヨー食品を相手取り大阪地裁に起こしていた訴訟で、日清は20日、今月15日付で和解したと明らかにした。訴えの一部が受け入れられ、サンヨーが作り方を昨年9月に変えたためという。

 日清によると、争っていたのは、お湯で戻すときれいにほぐれ、食べる時にはまっすぐになる「ストレート麺製法」をめぐる特許。日清はこの製法で「どん兵衛」などを作っている。

出典:「どん兵衛」と「サッポロ一番」和解 即席麺の特許巡り

問題の特許は、特許第4381470号「束になった即席麺用生麺」です。特許の権利範囲を規定する特許請求の範囲は一項のみで、以下のようになっています(下線は補正箇所、本件は早期審査対象であったため、出願時の請求項はIPDLではわかりませんでした)。

【請求項1】
複数の麺線が重なり合って略扁平な束になった即席麺用生麺であって、
前記生麺は、麺生地から切り出され、コンベア上で、当該コンベアの搬送方向に向けて配列されて製造されるものであり、
前記生麺を構成する各麺線は、前記コンベア上で屈曲しつつ繰り返し輪を描き、
前記輪は、前記コンベアの搬送方向と逆方向に順次ずれながら配置され、
前記各麺線の描く軌道は、隣り合う麺線の描く軌道と同調せず、
前記各麺線は、前記各麺線中の輪の位置が隣り合う麺線の輪の位置とずれた状態で、相互に交差して重なり合っており、

その重なり合った状態のまま蒸煮され、延伸され、切断され、乾燥されると、湯戻し時に麺線が略直線状となることを特徴とする、前記束になった即席麺用生麺

出典:特許第4381470号

訴訟提起が報じられた当時、越後製菓とサトウ食品の切り餅特許訴訟が話題になっていて、またも食品業界で特許紛争という感じで世間の注目を集めていました。東洋経済オンラインには詳細な解説記事も出ています。

 サンヨーは日清の特許はPBPクレームだと主張している。日清のストレート麺は、切り出し速度、ベルトコンベヤーの速度、切り刃から麺線を剥離する際の位置などの条件を調整している点に特徴がある。それに対して、サンヨーのストレート麺は、切り出しの際に強く気流を当てるうえ、その気流のために従来にはない特別な装置を使用しており製法がまったく違う、というのだ。
(中略)
 しかし、そうではないようだ。ややこしいことに、PBPクレームには真正(製造方法が違っていても侵害)と不真正(製造方法が違えば非侵害)がある。サンヨーが勝つには、裁判所が「日清の発明は不真正のPBPクレーム」と認める必要があるが、「そのハードルは高い」(前出の上山弁護士)という。そればかりか、「日清の発明は、実質的にはPBPクレームに当たらない可能性が高い」(上山弁護士)という。

出典:日清とサンヨーが激突「生麺特許戦争」の行方

「PBPクレーム」というのは「プロダクトバイプロセス(Product By Process)クレーム」のことで、製造方法を特定することで最終的な製造物を特定する請求項のことです。上掲の日清の特許では、コンベア上の配置や麺線の軌道など製造プロセスが記載されているので、プロダクトバイプロセスクレームに該当するわけです。

で、同じ製造物に複数の製造方法がある場合に、プロダクトバイプロセスクレームの権利範囲はどこまで及ぶのか、という論点があります。つまり、同じ製造方法で製造された物に限定されるのか、異なる製造方法で製造された物にも権利範囲が及ぶのか、という問題です。

これについては、知財高裁の大合議判決で実務的には一定の結論が出ています。

 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,同方法により製造される物と同一の物」と解釈されるのに対し,不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいては,当該発明の技術的範囲は,「特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物」に限定されると解釈される

出典:平成22年(ネ)第10043号 判決の要旨

つまり、
・真正プロダクトバイプロセスクレームなら製造方法に限定されない、
・不真正プロダクトバイプロセスクレームなら製造方法に限定される
ということです。

なお、真正か不真正かの判断は以下の基準によります。

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームには,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するため,製造方法によりこれを行っているとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)と,「物の製造方法が付加して記載されている場合において,当該発明の対象となる物を,その構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するとはいえないとき」(本件では,このようなクレームを,便宜上「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」ということとする。)の2種類があることになる

出典:平成22年(ネ)第10043号 判決の要旨

「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難であるとの事情」というのは、非常にレアなケースだと思います。大合議判決でも不真正プロダクトバイプロセスクレームと認定されました。そのため、基本的にプロダクトバイプロセスクレームは権利行使が困難であり、日清とサンヨーの件でも日清側が不利なのではないかと考える人が多かったようです。

今回は、どうもサンヨー側が特許権の侵害を認めて製造方法を変更したようです。訴訟が長引くことで弁護士費用などが嵩みますし、食品は流行の移り変わりが早いですから、これにこだわるメリットがなくなってきたのかもしれません。

個人的にどん兵衛もサッポロ一番も大好物なので、どちらも切磋琢磨してこれからもよい製品をわれわれの手元に届けていただきたいと切に願います。

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