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2015年3月14日、職務発明制度の見直しを中心とした特許法等の改正案が閣議決定されました。

この改正は2016年の施行を目指すとのことですので、特許異議申立制度の復活や商標の保護対象拡張を含む平成26年度改正から2年連続の知財法制改正ということになりそうです。

 政府は13日、社員が仕事で発明した特許を「企業のもの」とすることを可能にする特許法改正案を閣議決定した。現在は一律に「社員のもの」としているが、90年以上ぶりに職務発明の制度を変える。今国会に提出、2016年の施行を目指す。
 政府は社員が不当に報奨を削られないよう、労使協議に基づく社内報奨規定をつくることを指針で促す。現在は企業が社員から特許権を譲り受ける際に高額な対価を請求される恐れがあるが、指針に従っていれば訴訟に発展するリスクが低まる。他社との共同研究で発明した特許の管理も容易になる。
(共同通信)

出典:社員の特許、企業のものに 法改正案を閣議決定 – 琉球新報 – 沖縄の新聞、地域のニュース

各紙の報道を漁ってみましたが、見つかったのは琉球新報(参照)、ウォールストリートジャーナル(参照)、産経新聞(参照)、日経新聞(参照)のみでした。大誤報を飛ばした朝日新聞をはじめ、読売、毎日など大手新聞社はスルーしているようです。

産経新聞の記事の中にちょっと気になる記載がありました。

 政府は13日、社員が職務として発明した特許を「企業のもの」とできるようにする特許法改正案を閣議決定した。現在の特許法では「社員のもの」としているが、90年以上ぶりに制度を変える。今国会に提出し、平成28年の施行を目指す。
 改正案は、企業が契約や勤務規則の形であらかじめ社員に通知していれば、特許権は企業に帰属すると明記した。逆に帰属先を示す規定がない場合は、これまで通り、特許権が社員に帰属することになる。
 開発には多数の技術者や企業がかかわるケースが増えた。特許権の会社帰属を前提とすることで、権利関係の処理をより簡単にできるようにする。
 一方で、発明社員が「相当の金銭やその他の経済上の利益を受ける権利がある」と規定した。報奨内容をめぐり、企業が設ける社内規定について、政府は今後、ガイドラインを策定する。

出典:仕事での発明、社員のものから「会社のもの」へ 政府が特許法を見直し – 産経ニュース

特許権の帰属先をあらかじめ定めていない場合は従来通り従業員に原始的に帰属するように読めます。逆に言えば勤務規則等で法人帰属を定めない限り法人帰属にはならないということになります。現行法でも勤務規則等で予約承継を定めることができますからあまり変わらないような感じがします。

実際にどのような改正案なのか、経済産業省の発表資料を確認してみました。

(1)職務発明制度の見直し【特許法】

①権利帰属の不安定性を解消するために、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から使用者等に帰属するものとします。
②従業者等は、特許を受ける権利等を取得等させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとします。
③経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとします。

出典:「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(METI/経済産業省)

syokumu
出典:「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました(METI/経済産業省)

説明文では「定めたとき」しか書かれていなくて「定めなかったとき」の扱いが書かれていませんが、スライドの下の方では「特許を受ける権利は、発生したとき(発明が生れたとき)から従業者等に帰属」と確かに明記されていますね。

念のため条文案も確認してみました。下線は改正箇所です。

 従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

 従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(事項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

 経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聞いて、前項の規定により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする。

 相当の利益についての定めがない場合又はその定めたところにより相当の利益を与えることが第五項の規定により不合理であると認められる場合には、第四項の規定により受けるべき相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。

出典:新旧対照表(PDF形式:301KB)

変更される箇所を箇条書きにすると、以下の点になるかと思います。

  • 「特許を受ける権利を承継させ」が「特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ」に変更
  • 「相当の対価」が「相当の金銭その他の経済上の利益」に変更
  • 3項(勤務規則等で定めれば特許を受ける権利が使用者等に原始的に帰属する)が新設
  • 6項(相当の利益に関する基準の策定について経産省がガイドラインを定める)が新設

語弊があるのを承知で言いますと、「お金以外の待遇も職務発明の報酬として認めてもよい」という話に集約されそうな感じがします。

本来は職務発明の対価請求訴訟で予見可能性を高めることが改正の目的だったと思いますが、この改正で予見可能性が高まるような感じはしません。むしろ金額に換算できない人事上の待遇をどのように裁判所が評価するか訴訟になってみないと不明なままですから、せっかく今まで積み上がってきた判例がすべて覆されて短期的には予見可能性は低くなるような印象を持ちました。

おそらく今年の春から夏あたりに通常国会で成立するでしょうから、その間にどこまで詳細を詰められるのか関心を持ってウォッチしていきたいと思います。

ところで、世間の反応を調べようとしてtwitterで「職務発明」を検索したら、このツイートが一番最初に出て来てびっくりしました。

どちらかというとこの改正は従業員の権利を不当に弱めるとしてリベラルな人が強く反対している印象だったのですが、保守層の人も反対なんですね。ふーん。

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