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2027年にリニア中央新幹線を開通する計画を進めているJR東海が「リニア」の商標登録を他社に先取りされてグッズ販売に苦慮しているという記事が話題になっていました。

 2027年のリニア中央新幹線の名古屋開通まであと12年。リニアをあしらった商品も目立ち始めたが、商標を他社におさえられてしまい、おもちゃやグッズなどで「リニア」を商品名に使えない事態が起きている。予想しない、いわば超高速の商標登録に、JR東海の関係者らも困惑顔だ。
(…)
 調べると、「リニア」の商標は、鉄道業務などにかかわる分野はJR東海がおさえているが、おもちゃや文房具などグッズにかかわる分野は大阪府の不動産会社が持っていた。13年4月以降に登録され、その指定範囲は写真、印刷物、キーホルダー、布団、カーテン、将棋用具、すごろく、手品用具など思いつくままに対象を広げたかのようだ。

出典:「リニア」商標争い、超高速 JR出遅れ、玩具で使えず:朝日新聞デジタル

調べてみると2012年7月に出願され2013年4月に商標「リニア」が登録されていました。商標権者は「有限会社エコー商事」。住所は大阪府吹田市です。ストリートビュー等で所在地のビルを確認しても営業している様子はなく今ひとつ実体がわかりませんでした。

(111)登録番号:第5572593号
(151)登録日:平成25年(2013)4月5日
(210)出願番号:商願2012-58993
(220)出願日:平成24年(2012)7月23日

(732)権利者
氏名又は名称:有限会社エコー商事

5572593

(511)(512)【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】 【類似群コード】
14 キーホルダー,身飾品(「カフスボタン」を除く。),時計
13C02 21A02 23A01
24 布製身の回り品,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,ふきん,織物製トイレットシートカバー,織物製椅子カバー,織物製壁掛け,カーテン,テーブル掛け,クッションカバー,座布団カバー,マットレスカバー
17B01 17C01 19A06 19B56 20C01
28 愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具
19B33 24A01 24B01

出典:商標第5572593号

エコー商事はその他にも「リニア君(第5547489号)」「リニアモーターカー(第5600857号)」も登録していました。

一方でJR東海は、1992年9月16日に「リニア」や「リニア中央新幹線」について複数の区分を指定して出願しています。本業である「39類 鉄道による輸送」は第3019719号ですね。

(111)登録番号:第3019719号
(151)登録日:平成7年(1995)1月31日
(210)出願番号:商願平4-188841
(220)出願日:平成4年(1992)9月16日

(732)権利者
氏名又は名称:東海旅客鉄道株式会社

3019719

(511)(512)【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】 【類似群コード】
39 鉄道による輸送,車両による輸送,船舶による輸送,航空機による輸送,貨物のこん包,貨物の輸送の媒介,主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く。)の代理・媒介又は取次ぎ,寄託を受けた物品の倉庫における保管,他人の携帯品の一時預かり,倉庫の提供,駐車場の提供,コンテナの貸与,自動車の貸与,船舶の貸与
39A01 39B01 39C01 39D01 39E01 39E02 39H01 39H02 39K01 39K02 39L01 39L02 39L03 42A02

出典:商標第3019719号

1992年に出願している商標は35類から42類を指定していました。商標の区分は1~34類が商品、35~45類はサービスとなっています。簡単に言うと、JR東海はサービスについては手広く押さえていますが、物販についてはまったく手付かずであったということです。

今回はエコー商事がこの隙をついて商標を先取りしてしまったということになります。記事によればおもちゃ等のグッズはJR東海のグループ会社が製造販売しているようなので、自社で直接手掛けない分野については意識していなかったということなのかも知れません。

しかし、鉄道関連で多くのグッズが販売されるのは当然考えられる展開ですから、ブランド管理のためにもJR東海本体が広く商標を押さえてライセンスする形にしておいた方がよかったんじゃないかと思います。まぁ結果論ですが。

この件、世間の反応を眺めていていくつか疑問を口にされている方が見受けられましたのでまとめて解説しておきます。

「リニア」は一般名称だけどなんで登録できるの?

確かにリニア(linear)は「線形の」という一般名詞ですね。また、直線運動する電気モーターの普通名称である「リニアモーター」の略称とも考えられます。

商標法では3条1項1号で普通名称は商標登録できないことを規定しています。

第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一  その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

しかし、3条1項1号はあくまで指定商品との関係で普通名称かどうかが問われるので、商品「電気モーター」について商標「リニア」であれば問題になりますが、商品「おもちゃ」について商標「リニア」であれば問題にはなりません。

シャープの「IGZO」は無効になったけどどう違うの?

シャープの「IGZO」が無効になったのは「IGZO」が普通名称だったからではありません。3条1項3号のいわゆる記述的商標であることが問題になりました。

指定商品「ディスプレイ」の製造に使用される原材料「IGZO(Indium, Gallium, Zinc, Oxide)」を普通に表示しただけと判断されたのです。

第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

「鉄道による輸送」の役務を指定して商標「リニアモーターカー」ではダメな気がするんですが(リニアモーターカーという態様で輸送しているから)、少なくとも「おもちゃ」については問題になることはないでしょう。

JR東海はどうしたらいいの?

教科書的には一番に考えるのはエコー商事からライセンスをもらうことです。ただ記事になるくらい問題になるのであればライセンス交渉がうまくいかなかったということだと推察されます。当然エコー商事から商標権を買い取るというのも難しいでしょう。

次に考えるべきはエコー商事の商標権を潰すことです。潰すための手段としては無効審判か取消審判があります。取消審判では50条の不使用取消審判が一般的ですが、不使用取消は3年間の不使用期間が要件であり、本件商標は登録から2年程度しか経っていませんので現時点では請求できません。

無効理由として有力なのは4条1項10号でしょう。

第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十  他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

おもちゃやグッズに「リニア」の文字を見て需要者(消費者や取引業者など)がJR東海やその関連会社が販売してるものだなと考える程度に出願時から有名だったと判断できるのであれば、4条1項10号の無効理由に該当します。

JRがリニアモーターカーの開発を進めているのは何十年も前から知られていたわけだし、鉄道車両の模型などのグッズが駅売店などで販売されているのはよく知られていることですから、個人的には争う価値はあるんじゃないかと思っています。まぁやってみないとわかりませんが。

取消も無効もできなければ、現状のように、使わない、というのが選択肢になります。あとは名称を変えるとか。一部では「マグレヴ」に変えればいいんじゃないかという意見も見られました。

そんなわけで、記事では「商標争い、超高速」などと先取りした会社がうまくやったような印象を与えるタイトルになっていましたが、JR東海には少なくとも最初に商標出願をした23年前から備える機会があったわけで、その間にもっと広く商品を指定して登録していれば防げた話です。個人的には「これはやってしまいましたなぁ」という感想を持ちました。

ちなみに自然を愛する私は南アルプスに長大トンネルをぶち抜くような工事には断固として反対します。

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