スポンサードリンク

特許の審査においていわゆる「目的外補正」というものがあります。

出願内容に拒絶すべき理由があると特許庁から「拒絶理由通知」が届きます。特に、通常の拒絶理由通知に対して補正を行った結果発生した拒絶理由のみを通知するものは「最後の拒絶理由通知」と呼ばれています。審査の迅速化の観点から、最後の拒絶理由通知に対する補正は特定の目的に沿ったものでなければいけないようになっています。その目的に沿わない補正は「目的外の補正」として却下されるようになっているのです。

最後の拒絶理由通知に対する補正制限は第十七条の二第五項、目的外補正の却下は第五十三条第一項に規定されています。

5  前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一  第三十六条第五項に規定する請求項の削除
二  特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三  誤記の訂正
四  明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)

出典:特許法第十七条の二第五項

第五十三条  第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて第五十条の二の規定による通知をした場合に限る。)において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第十七条の二第三項から第六項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。

出典:特許法第五十三条第一項

最後の拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知に対する補正で新たに拒絶理由が発生した場合だけではなくて、最初の拒絶理由通知で通知するまでもないと判断した軽微な不備があった場合なども通知されます。例えば、進歩性違反があるとして最初の拒絶理由通知が発送されて補正により進歩性違反は解消したのだけれど簡単な誤記が最初からあったような場合が典型的です。

最後の拒絶理由通知が来ることは多々あるわけですが、これに対する補正が目的外となる場合、というのはそれほど多くありません。そういう事態になるのは、大体の場合、最初の拒絶理由通知の補正でミスをしているときです。

先日私も久しぶりにそうした事態に遭遇しました。最初の拒絶理由通知は進歩性違反で減縮補正をしたのですが、間違って明細書に書いていない内容が含まれる書き方をしてしまったのでした。当然、最後の拒絶理由通知で新規事項の追加の拒絶理由がきました。

本来であれば明細書に書いてある正しい内容に直せば済む話なのですが、この補正は第十七条の二第五項各号のいずれにも該当しません。こうなってしまうと正しい内容で分割出願するくらいしか特許を取る方法がなくなってしまいます。分割出願とは言え新たに出願すれば結構なコストがかかってしまいます。これはやばい。

仕方ないので「これは誤記だ。正しくはこう書きたかったのだ。」という意見書を添えて正しい内容に補正をすることにしました。いきなりそれで提出するのも怖いので事前に審査官に連絡して、こんな感じで応答しようと思うがどうだろうか、と見てもらうことにしました。

結論としては、特許可能という回答をもらうことができました。いわく「これは完全に目的外の補正である。しかし補正後の内容は特許可能なものである。このまま提出してくれれば特許査定を出す。」

詳しく話を聞いてみると、特許庁では目的外の補正であっても補正により特許可能な内容になっているのであれば補正を受け容れて特許査定を出す運用になっていて、それは審査基準の以下の記載が根拠になっているということでした。

(留意事項)
第17条の2第5項の規定は、迅速な権利付与の実現及び出願間の公平性の確保の観点から、既になされた審査結果を有効に活用して審査を進められるようにするために設けられたものであり、これを満たしていないことが後に認められた場合であっても、特許を無効とするような実体的な瑕疵があるわけでないので、無効理由とはされていない。
したがって、第5項の規定は、既に行った審査結果を有効に活用して審査を迅速に行うことができる場合において、本来保護されるべき発明についてまで、必要以上に形式的に運用することがないようにする。

出典:特許実用新案審査基準(第Ⅸ部 審査の進め方/6.2.1(3)目的外の補正(第17条の2第5項違反) )

当然ですが、「本来保護されるべき発明」であるかどうかは審査官が判断するので、目的外補正になりそうなときに構わずに補正してしまえばいい、という話ではありません。ただ、補正して特許が取れる可能性が高そうなときに目的外補正になるというだけの理由で分割などすることは必ずしも必要ではないし、事前に審査官に相談するとよいことあるかもしれない、というお話です。

たまに特許庁の審査官を敵みたいに捉えて文句ばかり言ってる特許業界の人もいるんですが、実際に審査官の人とお話してみると、皆さんできるだけ特許を出してあげたいという思いを持って仕事されているのを強く感じます。この審査基準の一文にはそういう思いが如実に表れているなぁなどと思ったのでした。

LINEで送る
Pocket