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最近、「放射能米」「放射能野菜」「放射線米」「放射線野菜」という商標が立て続けに出願されているようです。

「放射能米」

「放射線米」

「放射能野菜」

「放射線野菜」

出願の意図がよくわかりませんが、福島第一原発の事故後に(そして現在も)福島県の農業関係者が被る風評被害のことを思うと、あまり良い気分がしない人も多いのではないかと思います。

とは言っても放射性物質自体は自然に存在するものであるし、医療機器や生産現場などわれわれの生活において欠かせないものでもあります。ラジウム温泉など放射能を有する温泉はむしろ適量であれば身体に良い影響を与えることもあります。実際、米には10-25ベクレル/kg、ホウレン草には90-220ベクレル/kgの放射性物質が含まれているそうです(参照)。

では、これらの商標は登録されるのかどうか、ちょっと考えてみましょう。商標の審査は基本的に「ダメな理由がなければ登録される」という消極的なものですから、以下ではダメと言われるとしたらどんな理由が考えられるか、という視点で検討しました。

まず考えられるのは、商標法3条1項3号のいわゆる記述的商標です。

(商標登録の要件)
第三条  自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
三  その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

商品が一般的に備える性質をそのまま表したものは、取引等に必要な情報であり特定の人に使用を独占させるのは妥当でない、という理由で登録が認められません。「放射能米」の場合、品質や効能とも取れるし、生産方法と捉えることもできそうです(肥料に適量の放射性物質を混ぜて栽培した、とかね)。

次に考えられるのは、商標法4条1項16号の品質等誤認です。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十六  商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標

商標法は需要者の利益の保護も法目的に掲げていますので、需要者が品質を誤認するような商標は認められません。指定商品が「米」ですから、放射能を持たない米に「放射能米」と付して販売することも可能なわけですが、放射能を持つ米を求める客が(もしいるとしたら)間違って買ってしまうこともあり得るわけです。

最後の切り札は、商標法4条1項7号の公序良俗違反です。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条  次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七  公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

特に、審査便覧42.107.01によれば、「差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形等」は商標法4条1項7号に該当することになっています。

 ただし、「差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形等」の対象になると思われるものには、明らかに差別語等として認識し得るものばかりか、日頃、無意識に使用されてきた言葉や表現の中にも、被差別者に対する隠された差別意識や社会的弱者に対する蔑視的意味合い等を含み使用されてきたもの、社会情勢の変化とともに差別語として変質したもの等があり、その内容を定義化することは非常に困難である。
 したがって、「差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形等」の対象となるものを具体的かつ明確に示すことは難しいとしても、例えば、関係団体等からの情報提供や申し入れがあった場合には、その内容を詳細に検討し、更に必要があるときは資料等を求めることにより慎重に判断することとする。

福島県の農家の人などが例えば原発事故後に拡散していた差別的な言論を証拠として情報提供したら効果的なのではないかという感じがします。

率直に言ってこれらの出願は8,9割方拒絶されると思います。仮に登録されても使い道もないと思うし、仮に本気で使ったとしても独占的な権利を行使するほど多くの人が使いたがる商標でもないでしょう。

まったく、このような商標をどのような人間がどのような意図をもって商標登録しようとしたのか、理解に苦しみます。どうも近年は本来の趣旨と逸脱したかたちで商標制度を利用しようとする人が見掛けられてたいへん残念な気分になることがあります。

結果がどうなるか忘れなかったら追ってみようと思います。

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