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プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲に関する最高裁判決が出て話題になっています。プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは特許の権利範囲を規定する請求項(クレーム)において製造方法を特定する記載がされているものを言います。

原審の知財高裁では、基本的にプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲はその製造方法により製造された物に限定されるとしました。

これに対し、最高裁は知財高裁の判断を覆し、基本的にプロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨はその「製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定される」と判示しました。

製薬会社が独自の製造方法で特許を取得した薬を、別の会社が異なる方法で作った場合に、特許権の侵害にあたるかが争われた裁判で、最高裁判所は「製造された物の構造や特性が同じであれば、作り方にかかわらず特許権の侵害にあたる」とする、初めての判断を示しました。

出典:薬の特許「構造など同じなら侵害」初判断 NHKニュース

最高裁の判決文はこちらです。
1.平成24(受)1204 特許権侵害差止請求事件
2.平成24(受)2658 特許権侵害差止請求事件

ところで、この件の世間の反応を眺めていると、問題の所在を正しく理解していない人が多かったように見えました。一番目立ったのは、「製造方法」の特許の話であると誤解しているケースです。記事中では「特許の内容に製造方法も含まれている場合」などと書いてあり、仕方ないことだと思います。

ということで、この裁判で何が問題とされているのかを架空の例を挙げて説明してみようと思います。


Aさんはカレー屋さんを営んでいます。商売熱心なAさんはおいしいカレーの開発に取り組み、ある日、カレーに入れる牛肉を糸のこぎりで切断し、野菜をほうれん草の煮汁で下茹ですると劇的においしくなることを発見しました。お客さんにモニターをお願いして秘密保持契約の下にブラインドテストをし、有意においしくなることが証明されました。そこでAさんはこの新しい調理方法によるカレーの特許を取得することにしました。

Aさんのカレーをプロダクト・バイ・プロセス・クレームで書くとこんな感じです。

「糸のこぎりで切断した牛肉と、ほうれん草の煮汁で下茹でした野菜と、をカレー粉で煮込んだカレールー。」

カレーの製造方法のクレームにするとこんな感じになります。

「ほうれん草を煮て煮汁を抽出し、牛肉を糸のこぎりで切断し、野菜をほうれん草の煮汁で下茹でし、その牛肉とその野菜をカレー粉で煮込むことを特徴とするカレールーを製造する方法。」

ここではAさんはプロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許を取得したものとしましょう。

Bさんは洋食屋を営んでいます。Aさんのカレーがおいしいという評判を聞き、Aさんの店に足繁く通って味の秘密を研究しました。その後、Aさんのカレーの味を再現するために努力を重ね、ある日、牛肉を包丁で切断し、その牛肉と野菜を3時間天日干しにするとAさんのカレーと同じ味になることを発見しました。Bさんの店は立地もよくAさんのカレーと同じ味が手軽に食べられると評判になりました。

Bさんの商品「包丁で切断した牛肉と野菜を3時間天日干しにしてカレー粉で煮込んだカレールー。」

AさんはBさんが自分の特許を侵害しているとして訴訟を起こしました。ここでは、AさんのカレーとBさんのカレーは偶然にも成分や特性がまったく同じであったものとします。

ここでの問題は、Aさんの特許は、糸のこぎりで切断した牛肉が入っているカレーに限定されるのか、Aさんとは別の方法で製造して結果的に同じ成分になったカレーも含まれるのか、ということです。知財高裁は前者と考え、最高裁は後者と考えました。


一見すると、Aさんの特許は糸のこぎりで切断したものでなくてもよく、権利範囲が広くなったように見えます。しかし、今回の判決ではここからさらに一歩踏み込んでいます。

特許法ではクレームの記載が明確であることが特許要件として求められます。第三者がそのクレームを読んで権利範囲を正しく認識できなければその特許を侵害しているのかどうか客観的に判断することができず権利関係が不安定になるからです。

最高裁は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの要旨は製造方法に特定されないものと認定すべきとし、その要旨に対して結果物からは外見的に判断できないような製造方法で特定しているクレームは明確性の要件を満たしていない、としたのでした。要するに、例外的な場合を除いて、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは無効であるとしたのです。

法律論的な評価はこれから多くの学者、実務家から評釈が出てくると思いますが、実務的な観点から言うと、これから出願する特許についてはプロダクト・バイ・プロセス・クレームを書くことは厳禁とするしかないでしょう。

かなり思い切った判決だと思います。しばらくは混乱が続くんじゃないでしょうか。

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