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TPP交渉がいよいよ大詰めとなってきて各分野の決定事項が報道されるようになってきました。難航していた知財分野では著作権保護の死後70年への延長、著作権侵害の非親告罪化が盛り込まれる見込みとの報道がされています。

TPPではもう一つのトピックとして法定損害賠償の導入も議論になっていたかと思いますが、この記事では触れられていません。

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉で参加12カ国が著作権分野のルール作りで合意する見通しになった。米ハワイで28日に始まる閣僚会合で最終決着する見込みだ。著作権保護期間は「作者の死後70年」で統一する方向。また、著作権侵害を、作者など著作権者の訴えがなくても、捜査当局や一般人も訴えることができる「非親告罪」として扱う見通しだ。日本は保護期間を「作者の死後50年」、著作権侵害は著作権者の訴えが必要な「親告罪」としてきたため、大きなルール変更になる。

出典:TPP:「著作権」決着へ 「死後70年」と「非親告罪」 – 毎日新聞

非親告罪化については、いわゆる同人活動などの二次創作に影響がある可能性について簡単に触れていました。

 また、著作権侵害の「非親告罪」化は、オリジナルをヒントに作品を作る「2次創作」の行為などが問題になるとの懸念が上がっている。

出典:TPP:「著作権」決着へ 「死後70年」と「非親告罪」 – 毎日新聞

背景

二次創作を行うと形式的に原著作物の同一性保持権と翻案権を侵害することになりますので、原著作権者の許諾を得る必要があります。しかし、多くの同人活動は一般人が趣味の範囲で行っているものであり、プロの漫画家から許可を得るというのはなかなかハードルが高いです。

一方で、同人活動は基本的に原著作物のファンが作品を愛するが故の活動でもあり、原著作権者側もあえて権利行使をしないのがお約束になっていました。つまり、同人活動はファンと原著作権者の信頼関係からなる微妙なバランスの上に成り立ってきたのでした。そして、これを確実なものにしてきた一因が著作権侵害罪が親告罪であったことなのでした。

ここで、TPPによって著作権侵害の非親告罪化がされると、原著作権者の意図に関係なく警察による捜査の手が二次創作にも及ぶことが法的に可能となります。そのため、同人活動などを熱心に行っているファンたちの間で反対の声が大きかったわけです。

非親告罪化の影響は限定的

私は非親告罪化による影響は限定的なものになると思っています。少なくとも、警察が独自の捜査でコミックマーケットを始めとする同人活動に踏み込むという場面は当面の間考え難いと思います。

著作権侵害が非親告罪化したときにどのようなことが起こるかを考えるには、現在似たような状況でどのようなことが行われているのかを考えるのが有効だと思います。知財関連では、昔から模倣品問題というものがあります。一般に流通する商品を無権限の第三者がコピーして正規品と偽って流通させる行為です。偽ブランド品などがその典型例です。

模倣品の摘発をする場合、正規の権利者の存在や、ライセンス契約の有無など流通過程をすべて洗わないといけません。知的財産権は無体財産権ですから、被疑品が目の前にあってもそれだけでは侵害しているかどうか判断できないからです。商標権などの場合、権利の存在は特許庁の原簿で簡単に確認はできますが、その品物が正規の権利者により流通過程に乗せられたものなのかは第三者には判断できません。一番確実なのは権利者本人に確認させることですから、税関の輸入差止では必ず権利者に確認させ、回答が得られなければ差止は行わないようになっています。

著作権の場合、わが国は無方式主義かつ無登録主義を採用していますから、著作権の存在は推定できても権利者の確認は容易ではありません。また、海賊版ならともかく二次創作の場合、原著作物がどのようなものであるのかを把握していなければ、著作権法上の二次的著作物(つまり違法)になるのか、アイデアだけ借りた別の著作物(つまり合法)になるのかも判断できません。これを警察が単独でやるのは不可能で、やはり著作権者による確認は必須になるでしょう。

このように考えると、著作権侵害が非親告罪化しても、警察独自の捜査では現物と被疑品を見較べれば簡単に判断できる海賊版対策くらいしか現実的には運用できず、二次創作まで手が伸びることは当面ないのではないか、と私は考えています。

怖いのは悪意の通報、別件逮捕、そして過度な萎縮

著作権侵害の非親告罪化で懸念されるのは、以下の三点、すなわち悪意の通報、別件逮捕、そして過度な萎縮です。

一つは、第三者による通報、特に相手を貶めようとする悪意の通報です。警察独自に捜査をする意図も能力もなかったとしても、善良な(と思われる)市民から、どこそこの誰誰が疑わしい行為を行っているという通報があれば、まったく無視するわけにはいかないでしょう(実際には被害届を出しても放置されることが多いようですが)。仮に合法的に二次創作を行っていたとしても、それを警察側が単独で確認することは不可能ですから、当然本人に事情を聞かざるを得ません。一般人にとっては警察から任意とは言え事情聴取されるのは大変なプレッシャーです。これに対応する時間や労力も無視できません。悪意のある第三者が虚偽の通報を行うことで、嫌がらせをすることができてしまう可能性があります。

もう一つは、別件逮捕など警察の恣意的な運用に使われることです。この辺はいかんともし難い面があり、不安は尽きません。具体的にどうしたらいいのかアイデアを持ち合わせているわけではないですが、著作権に限った話でもありませんので、何らかの歯止めが効くように工夫していただきたいところです。

一番の問題は、やはり様々なところで言われているように、非親告罪化によって今までグレーゾーンでやってきた二次創作は潰される、もう止めた方がいい、という雰囲気が広がって萎縮してしまうことです。二次創作の盛り上がりは原著作物の売り上げにも影響するはずなので、業界全体の縮小にも繋がりかねません。クールジャパン政策には私は懐疑的ですが、明らかにマイナスの影響があるでしょう。

私は上述した通り影響は限定的だと思っているし、みんなビビり過ぎだと思っています。気にせずに今まで通りやったらいいんじゃないでしょうか。

とか言っても、それで酷い目にあったところで私が何かできるわけでもなく、自己責任でやってくださいね、としか現状は言いようがないわけです。少しでも懸念される点は共有して、リスクを減らすことができるような制度が構築されるといいなと思います。

まとめ

ネットを中心に非親告罪化は極めて不評なのでありますが、例えば、海賊版とかネットでの無断転載とか、権利者側で対処するのが難しく、またその見返りも乏しいがために放置されている違法行為は世の中に溢れています。これらを撲滅するために非親告罪化は強力な武器にもなり得るものと考えています。

たぶん非親告罪化は世間で心配しているほど酷い制度ではなく、結果的によかったか悪かったかを決めるのは我々の使いようなんだと思います。

何しろTPPに盛り込まれても国内法を整備しなければ直接の影響は及ばないわけですから、まだまだ時間はあります。ちょっと楽観的かもしれませんが、前向きにうまく回せる仕組みを考えていけたらいいんじゃないかな、と考えています。

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