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数々の疑惑を呼んだ佐野研二郎氏作による東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムは白紙撤回という残念な結果になりました。

2020年東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムについて、大会の組織委員会は、佐野研二郎氏がデザインしたエンブレムについて、「佐野氏は模倣ではないと否定したが、一般国民の理解が得られない」として白紙撤回し、新たなエンブレムを公募で選ぶ方針を示しました。

出典:佐野氏デザインのエンブレム 白紙撤回 NHKニュース

個人的には、あのデザインが取り立ててよいものとは最初から最後まで思えませんでした。とは言っても、ロンドンやソチのエンブレムも大してよいものとも思えないし、そんなに総叩きに遭うほど酷いデザインとも思っていませんでした。

リエージュ劇場のロゴに対する盗作疑惑が発端にはありますが、あれは一部の要素が類似しているとしてもシンプルな幾何学デザインにおいて創作性が発揮された部分に類似性はなく、少なくとも日本の著作権制度の範疇で言えば著作権侵害が成立する余地はないものと思います。

どうも決定打になったのは、応募資料の使用例で他人の著作物を盗用していたことが発覚した件のようです。公表予定のない文書とは言え私的利用には当たらない以上著作権には配慮すべき場面であるし、コピーライトマークを意図的に消去しているようでかなり悪質な盗用事案にはなるでしょう。とは言っても、エンブレム自体の問題ではないし、すでにスポンサーが展開を始めているエンブレムを白紙撤回する理由としてはあまり強くないという印象です。

サントリーのトートバッグを始めとして佐野氏の過去の仕事の中にも他者の著作物を盗用している例があることが発覚しました。ディレクターとしての仕事の中で配下のデザイナーが盗用していたようで、ディレクターとしての監督責任みたいなものは生じるだろうし、対価を得てやっている仕事である以上これについては言語道断という外ありません。しかしながら、これも本質的にエンブレム自体の有効性とは関係のない事情です。

結局のところ、私には一旦決定した公式エンブレムを白紙撤回するだけの合理的な理由があるように思えません。組織委員会は「一般国民の理解が得られない」と言いますが、理解が得られたのか得られていないのかってどうやって評価したのでしょうか。一億三千万人弱いる日本国民の総意など得られるわけがないし、世界的なイベントの象徴が開催国とは言え一国の中に声の大きい反対派がいたことをもって、決定的な理由もなく覆すのは悪い前例にしかなりません。

私が一番恐ろしいと思うのは、著作権という権利が不当に大きく扱われていくことです。今回の騒動で知的財産の重要性が認識されてよかったといった感想も見掛けるのですが、あたかも似ていさえすれば著作権侵害が成り立つかのようなことを平気で言う識者風の人もいたようです。著作権は無方式主義なので公示手段もなく偶然似たものができることもあり得るので、依拠性すなわち他者の著作物を参考にしたことが求められます。これを立証するのは非常に困難でそれが一定の歯止めとして働いています。単に部分的に似ているだけで著作権侵害を決めつけるのは権利の濫用です。本来なら根拠なくそのようなことをすれば損害賠償請求されてもおかしくない行為なのです。

また、少なくとも現時点では著作権侵害は親告罪です。仮に形式的に著作権侵害があっても著作権者が権利行使しない以上はお咎めなしというのが著作権制度の基本です。今回の騒動では確かに盗用があったことを認めていますが、著作権者自身は何らアクションをしていない状況で第三者のネット民やマスコミが殊更に騒ぎ立てることがありました。もちろん本人が黙っているから何してもいいという話ではありませんが、著作権者自身の意思が完全に無視されていて、著作権制度への無理解を助長する結果となっているような気がしてなりません。

とにかく明確に致命的な問題がないままに、何となく世間の理解が得られないから事態を収拾するために簡単に決定を覆すというのは極めて下策だと思います。組織委員会には、一度決めた以上はデザイナーへの誹謗中傷も丸ごと引き受けるくらいの意気込みで仕事をして欲しかったし、今後はこれを教訓にして責任感のある仕事をして欲しいと思います。

でないとこんな状況では今後オリンピック関連の仕事に誰も関わろうと思わないし、能力不足の陣容でグダグダなまま本番を迎えることになりかねません。私はそれが一番不安です。

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