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正月休みを利用して以前から読もう読もうと思っていた本書を読み切りました。

原題は『PATENT FAILURE: How Judges, Bureaucrats, and Lawyers Put Innovators at Risk』です。

米国の特許制度がいかにイノベーションを阻害しているかを実証的に探究する内容になります。このようなテーマの書籍としては『〈反〉知的独占』を読んだことがありますが、『〈反〉知的独占』が経済的な側面に偏っていて若干乱暴な印象を受けたのに比べて、本書では法制度上の問題も掘り下げて考慮しており説得力のある内容であったように思います。

本書の主張を簡単にまとめると、現在の米国の特許制度は主に公示機能の欠陥により一部の技術分野を除いてイノベーションを抑圧する結果を招いている、ということに尽きます。公示機能とは、その特許の権利範囲に関する予見可能性とでも言うようなもので、ある製品が他者の特許技術に該当するのか否かを誰でも理解できるようになっているか、ということです。すなわち、現行の特許制度は公示機能に欠けており、自分が開発した技術が他者の特許を侵害しているのかどうかを裁判にならないと確定できない状況になっているため、イノベーションに取り組む者のモチベーションを著しく低下させる要因となっている、というわけです。

問題を難しくしているのは、技術分野によって状況が異なるということです。本書では、公示機能が有効に働いている技術分野として、化学や医薬品を挙げています。これらは化学式で権利範囲が規定されるため、これに該当するか否かは第三者が容易に判定できるということです。一方、公示機能が破綻している技術分野は、ソフトウェアとバイオが挙げられています。特にソフトウェア特許は本質的に抽象的なアイデアになるため技術の境界が曖昧になりがちであることが指摘されています。

本書の終盤では公示機能を改善するためにどのような改革が必要か提言がされていますが、取って付けた感じであまり説得力はありませんでした。言ってること自体はわからなくもないのですが、理想論に近く実務的には実現困難と言わざるを得ないものだと感じました。

本書の議論は米国の制度がベースであるため、日本にそのまま妥当するものではありませんが、大きな枠組みは日本においても言えることだと思います。つまり、特許の権利範囲が不確定で最終的に裁判で決着を付けるまで誰にも結果を見通すことができないということと、技術分野によって特許制度の有用性が大きく異なるということです。

本書の主張自体はそれほど目新しいものではないかもしれません。しかし、本書では各論点を実証的な証拠を積み重ねて議論を進めているため、納得感のある主張になっています。普段ぼんやりと思っていたことが、ああやっぱりそうだったんだ、と確認できるという意味で非常に意味のある議論だったと思います。

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